ロードバイクで楽に速く走るためには、まずはポジションが大事。それは各部を数ミリ動かしただけでも違和感を感じるほどシビアなもの。
そしてポジションは一定ではなく、筋力や柔軟性など体が変化するにつれて変わっていくものだから、これまた難しい。ポジション沼にハマりながらも、いろいろ自分でいじっていくことが、ロードバイクへの理解を深め自分の体の感覚を理解し養うためにも重要なのだと思う。
そう、いろいろいじってダメだったら元に戻せばいいだけの話。
けれどコラムカットだけはカットし過ぎてしまうと元には戻せません!!コラムカットだけは注意した方がいいですよね!というお話です。
だんだんハンドルを下げたくなってきた
体幹の筋力がなかったとき(→ゆるポタゆったりポジション)
EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 42mm f16 1/40sec ISO100 PLフィルター
当初速く走ったりレースに出るつもりは全くなく、フレームの造形の美しさと好きなカラーに惹かれて選んだのが、レーシングジオメトリーを採用するピナレロF5。
購入から1年半の間ずっと、レーシングバイクの前傾のキツさに悩まされてきた。走っていて真っ先に痛くなるのが腰。深い前傾を支えるだけの体幹の筋力がないことに起因する。
自分に必要だったのは、レーシングバイクではなくエンデュランスロードだったのではないか?と何度も思ったり。w
乗る頻度は多くはなく、ちょい乗りとたまにロングライドする程度では、体幹の筋力はなかなかつかない。それでも乗るにつれて徐々に腰が痛くなってくるまでの距離は延び、ロングでなければ前傾姿勢は苦にならなくなってきていた。
逆にもう少しペダルに体重を乗せようとすると、さらに前傾を深くする必要を感じ始める。
ブラケットポジションだと前傾が浅く、前傾を深くするために下ハンで走行することが多くなってきた。またブラケットポジションを持つとハンドル位置が高いのか、手に不必要に荷重がかかってしまい、手が痛くなるようになことも多かった。
なんかハンドル高いんじゃないかな~、とか思いつつも、完全フル内装のステム一体型ハンドルをいじるのが面倒だったので、そのままにしていた。
体幹の筋力を鍛えたとき(→ヒルクライムレース参戦)
ハンドル位置の再調整を迷っていると、転機が訪れる。
今までのガチなゆるポタ路線から一転、ブロンズリング欲しさに富士ヒルに参加することになる。
いざヒルクライムを初めて見ると、ブラケットポジションだとハンドルが高すぎるのか、重心が後ろに持っていかれてしまい、ペダルに効率的に荷重をかけることができない。そこでペダルに効率的に荷重を変えるために、体幹を鍛え、富士ヒル本番はすべて下ハンのポジションで登ることで対応した。
3回の試走と富士ヒル本番の計4回、他の競技者のバイクをつぶさに観察してきたが、タイムを出しに行くような人たちで、自分のような高いハンドル位置の人はまずいない。ほとんどの人はコラムスペーサー1~3枚かスペーサーなしのベタ付け状態だった。
自分は下ハンで富士ヒルを乗り切ったが、ヒルクライムには深い前傾が必要なことを改めて認識。
そして、コラムスペーサーが積み上がった”首長竜”になっている自分のバイクは、カッコ悪いとも思えてくる。
最近ずっと下ハンばっかり持つようになっているし、体幹鍛えられてるよね。そろそろハンドル下げた方がいいんじゃない?
富士ヒルを終えて、ベストポジションに調整するべく、ハンドル位置を下げることにした。
ハンドル位置を下げるメリットとデメリット
ハンドルを低くしたときのメリットとデメリットを、実際に体感した限りで挙げると以下でしょうか。
メリット
②見た目が優れる
➂空力性能の向上(はあまり感じない)
メリットで一番大きいのは、①前傾が深くなることによって、てこの原理でペダルに体重を乗せやすくなる=パワーが出る、というところは間違いないかと思います。これはハンドル位置を下げてみると、これはすぐに分かる。
一方で➂空力がよくなる、とよく言われるけれど、自分の場合では明確な変化は感じられなかった。
ハンドルを下げたところで一番上に飛び出ている頭の位置が変わらなければ前方投影面積は変わらず、空力には影響ない、というところでしょうか。
➂見た目は良くなりますね!
コラムスペーサーが少ない方が、よりレーシーで洗練された印象を受けるでしょう。昔ロードバイクにまったく興味ないときはそんなこと毛ほども思わなかったけれど、ロードバイクに興味を持つようになった今では、コラムスペーサーの厚さに敏感になっている自分が不思議。w
個人的には、コラムスペーサー3枚(=3cm)までがスマートだと思う。
デメリット
②柔軟性も必要
➂視界の悪化(はそれほどでもない?)
④元に戻せない不可逆的な変更
一方、デメリットで一番大きいのは、やはり強靭な体幹筋力が必要ということでしょう。
体幹筋力が足りないとどうなるかと言うと、まず腰が痛い(実体験)!!
次に上半身が支えられなくなるので、ハンドル荷重が大きくなるということ。ハンドル荷重になると手のひら神経が圧迫されて、手のひらが痛い・痺れる、という症状に悩まされることになる(これまた実体験)。
ハンドル下げ作業
作業手順
フル内装のステム一体型ハンドルを前提とすれば、コラムカットしてハンドルを下げる手順は以下のよう。
②ハンドルを外す
➂コラムスペーサーを外す
④コラム切断位置に印をつける
⑤ソーガイドをセットする
⑥コラム切断
⑦切断面処理
⑧元に戻す
自分と嫁さん用のロードバイク2台を同時にカットしたので、作業風景を見ていきます。
ピナレロF5
ハンドルを下げる前は、コラムスペーサー1cm×3+5mm×3の計4.5cmのスペーサーで高さを出している状態。まぁそこそこの首長竜状態。カッコよくはない。w
MOSTのステム一体型ハンドルを使っているため、スペーサーを抜いたとしてもコラムをカットしないとトップキャップを締めてフォークを引き上げることができないので、コラムをカットする必要がある(後から思えば、とりあえずハンドルを固定して試走すべきだった)。
さてさて、何枚スペーサーを抜きましょうか。コラムカットを伴う不可逆的な作業となるので慎重にならざる得ない。
ヒルクライムレースで早く走るためには、ハンドルを低くした方が明らかに有利。しかし体幹が鍛えた上がっている今は良いが、年齢を考えるとこの先体幹筋力が弱くなって上半身を支えられなくなることもなきにしもあらず。
年齢を考慮すると、あまり短く切るのはよろしくない気がする。
迷いに迷って、最終的に2cm切って2.5cm残すことにした。
トップキャップを外して、ステム一体型ハンドルを引き抜く。そして分割型のコラムスペーサーを外して、コラムカットのための作業スペースを確保する。
ここで忘れずにプレッシャーアンカーを引き抜いておく。プレッシャーアンカーごと切断したら笑えない(途中で気付くはずだけど)。w
切断のための作業スペースを確保するために、スペースができるとこまでコラムスペーサーを外しておく。
慎重に切断位置に印を入れて、ソーガイドをセットする。
狭いスペースでの切断作業になるので、ソーガイドは用意しておいた方が良いと思う。
いざ切断!ああ~、切ってしまった。さよなら、初心者だった自分。w
コラムはカーボンなので、ほつれることがないよう末端処理を施工。やすりで整えて、瞬間接着剤でほつれ防止。
元に戻して、ハンドル下げ作業終了。レーシングバイクらしくスッキリした。
戻す際は、以下①②➂の順序をお間違いなく。
① プレッシャーアンカー装着(→ステム締め付けによるカーボンコラムの保護)
② トップキャップの締め付け(→ フォークを引き上げて固定)
➂ ステム固定(→ ハンドル左右の本固定)
またせっかくハンドルを外したので、元の戻す前に必要に応じて、ヘッドベアリングの掃除とグリスアップをしておくとよいでしょう。
以前コンポを載せ替えたときに、もしものときのためにブレーキホースを長くしておいた。そのためハンドルが低くなった分だけ、完全内装されたブレーキホースが内部で余ってハンドル操作に支障が出ることを懸念していた。けれど特に大丈夫だった。
余ったブレーキホースを切断することがなくてよかった。油圧は面倒くさいので、極力触りたくない。
ここまで慎重に作業して、2時間弱。
最後にハンドルを下げたことによる副産物として、軽量化の度合いを測定。
コラム2cm弱のカットで△5gの軽量化。コラムスペーサー2.5cm分の△23gを加えると、合計で△28gの軽量化を達成。ポジション調整だけで軽量化もできて、これはちょっと嬉しい。
ELVES VANYAR PRO
1台ハンドル位置を下げたので、ついでにもう1台もハンドル位置を下げることに。
こちらはロードバイク未経験の嫁さん(と自分兼用)のバイク、ELVES VANYAR PRO。ロードバイク未経験でかなり安全目に高めにハンドルをセットしたが、コラムスペーサー6cmはさすがに積み過ぎた。
よく考えたら、自分にとってハンドル位置が高いということは、ハンドル位置が一緒で(完全フル内装のステム一体型ハンドルなので容易には変えられない)サドルをベタ下げにした嫁さんからすれば、自分よりもっとハンドル位置が高いことになる。
がっつし半分の3cm分のコラムスペーサーを抜くことにした。
ELVES VANYAR PROも、ハンドル周りはピナレロF5と同じ構造。
トップキャップを外してハンドルを外してスペーサーを取り外す。VANYAR PROのコラムスペーサーが、空力をまったく考慮していなそうな円形というのが、自分的にはあまりイケていないと思うところ。
こちらもブレーキホースは繋いだままで、いざバッサリと。
ケーブルフル内装モデルのコラムカットは、思ったほど大変ではなかった。
組み立て直してスッキリした。ハンドル位置を3cm下げたが、こちらもブレーキホースが中でつかえることはなく、無事作業終了。
バッサリ3cm切ったのと、コラムスペーサーが円形で重たかったのか、合計△66gの軽量化達成。
ハンドル位置を下げた結果
短く切りすぎた...
コラムカットして、さっそく乗って見ると...。
ん!?なんか落ち着かないぞ...。
いきなし2cm、3cmもハンドル位置を下げると、さすがに最初は違和感たっぷり。
違和感を我慢して10分ほど乗っていると...、腰が痛くなってきた。
やばい!これは切りすぎたかもしれない。
確かに予想した通り、ブラケットポジションを持った手への不必要な荷重が減ってその分ペダルに体重が乗るようになった。効率的なペダリングが実現し、早く走れるようになったのは明らかだ。スピードメーターを見てもその変化に気付く。
しかし一方で、コラムをカットした分だけハンドルは下がると同時に、ヘッドチューブ角がついている分だけ前方にも押し出されて遠くなる。上半身を支える体幹には絶えず一定の力が必要になり、ホッと気を休めることができない。
コラムを切りすぎた対応策とその後
自分のピナレロF5については、若干恥じらい気味に短くコラムカットしたので、神に祈るような気持ちで5mmのスペーサーを戻してみたら、なんとかハンドルを締められ戻すことができた。
△2cmカットしたところを△1.5cmカットまで戻せたので乗ってみると、ちょっと楽になった。助かった!
でも今までとは明らかに違う。依然として腰への負担が大きい。
富士ヒルでブロンズ滑り込みで獲得できたことで勘違いしてしまったのだろう。そこまで自分の体幹は鍛え上げられてはいなかった。
コラムカットの最適解は、△1.5cmではなく△1cmだったのだろう。
思い返せば、ステムのたった1cmの変化だけでも乗れないバイクになってしまうもの。以前ステム長10cmで腰砕けて乗れないところ、ステム長9cmにしたらようやく乗れるバイクになった。
ハンドルの高さ1cmも、ステム長の1cmと同じくらいインパクトが大きいことを知った。
ここから得られる教訓は、
◗ コラムをカットする前にまずはハンドルを下げた状態で試し乗りしましょう(少なくとも30分以上は必要だと思う)
◗ カットするのは慎重に焦らず、まずは1枚からカットしましょう(たった1cmでも影響はかなり大きい)
ということでしょうか。
短く切りすぎてしまった対応策としては、その前傾に見合った体幹筋力を鍛えるということだけ。
いや~、ちょっと切り過ぎちゃったな。完全に失敗した。
その後2週間腰痛に悩まされながら乗り続けたところ、なんとか体がマシンに適応し、乗れるバイクに。
100km超のロングを何度か走ってみたところ、普通に走り切れたときもあれば、走り切れたけれど腰痛に悩まされたときもあり、ロングだとまだ体の調子に左右される感じ。
腰痛だけでなく、前よりハンドル荷重になってしまい、掌が圧迫され痺れも生じる。
ちょっとゆるポタバイクではなくなっちゃった感じ。この状況になってから、よく言われる「ロングライドにはエンデュランスロードのようなハンドル位置が高い方が楽」というフレーズの意味を切実に理解した。
それにしてもコラム全カットしている人とかよく乗れるなぁ~と感心してしまう。
コラムカットして思ったのが、ハンドルが高すぎるデメリットって大したものではなく(ほとんどないかも)、低くし過ぎたデメリットの方が明らかに大きいと感じる。
”楽に走る”とは?
レーシングバイクと比較してエンデュランスロードでよく言われるのが、「前傾が緩く楽に走れる」というもの。
ここでいう「楽」とする前提の対象は体幹筋力がまだ十分についていない人であって、「体幹筋力をあまり必要としないので(腰とか痛くならずに)楽」ということでしょう。
ではこの前傾が緩く楽に走れるバイクを、既に体幹筋力が十分ついている人が乗った場合はどうでしょう?
身体を鍛え上げてレースに参戦するような人が、前傾の緩いポジションのロードバイクに乗って思うことは、「このバイク全っ然進まないよ(=楽じゃない)!」と思うのではないでしょうか。
ロードバイクで、楽に速く走りたい。
この”楽に”とは、「体幹筋力を必要としない」ことなのか、はたまた「効率的にバイクを速く進ませられる」ことなのか。
”楽”と感じる対象の乗り手が異なると、答え、求める方向が異なってくる。
そのため、自分は今どちら側なのか?ロードバイクに何を求めるのか?という点を認識して、ハンドル位置を決めていくものなのでしょう。
コラムを若干短く切りすぎてしまったピナレロF5は、辛うじて首の皮1枚、ぎりぎり快適に乗れるポジションを残している状況。
楽に速く走れるよう、まだまだこれからも体幹筋力を鍛えていかないといけない。