諸々の事情で、雪山に行けていない今シーズン。そんなこと言っているうちに本当に雪山シーズンが終わってしまう。
近年繰り返してきた変態山行も、間を置くとその負担度から気持ちと身体がなかなかついてこない。というより行きたい雪山はほとんど行ってしまって、行くところがあまり残っていない、というのも正直なところ。いやしかしここで雪山をやめてしまうのは、もったいないというかまだやめてはならない気がする。
そんな中まだ情熱を感じるのが、西吾妻山や蔵王、八幡平や八甲田山などの極上の樹氷スノートレッキングだ。あの非日常の景色をもう一度完璧な状態で撮りたい。そして日中の白い世界ではなく、朝夕のピンク色に染まった景色を狙いたい。
天気予報を眺めつつ、昨年天候に恵まれなかった西吾妻山へ、ピンクスノモンを撮りに行こう。
登山ルート
〔距離〕16km/〔累積標高〕1,230m
〔山行〕6時間20分/〔休憩〕4時間40分〔合計〕11時間00分
南東北と言えども片道350kmの遠征となる。そこまでの時間とコストをかけて1日1山ではコスパが悪すぎる。ということで、東北遠征する場合は、朝焼けと夕焼け狙いのダブルヘッターとするのが自分の通例となっている。
この山域では過去、①安達太良山→西吾妻山、②西大巓(西吾妻山は天候悪化で中止)→安達太良山と、2回ダブルヘッターを成功させている。西吾妻山や安達太良山に惹きつけられて、冬の磐梯山にはまだ登れていない。
そこで今回は、西吾妻山(西大巓)で朝焼け撮影→磐梯山で夕焼け撮影のダブルヘッター計画とした。冬の晴天の一日で、朝焼け夕焼けの両方を撮れれば文句なしのパーフェクトなのだが、さてさて今回はうまくいくだろうか。
山行記録 2025年2月15日(03:30-14:30)
登り(グランデコ 03:30- 西大巓 07:00)
EOS R5+RF14-35mm F4L IS USM 14mm f8 1/60sec ISO100 PLフィルター
03:30 毎度の諸事情により到着が遅れて、予定より30分遅れで真っ暗闇の中、グランデコをスタートする。いや本当に雪山のナイトハイクなんて怖くて仕方ないのだが、昨年も西大巓までナイトハイクしているので心配はそれほどない。と言いつつ、今シーズン初の雪山がBCカントリースキーで若干心配ではあったものの、バックカントリースキーも何度も繰り返してきたからか、一つ一つの動作を体が覚えていて的確に動作する。何事も反復による習熟は大切なんだな。
05:10 1時間半かけて、距離4km標高差550mのゲレンデを登り切ってゲレンデトップに到着。何気にスキー場のゲレンデを端から端まで歩くのは長いね。休まずそのまま登山道に入り、西大巓を目指す。なにせ西大巓山頂夜明けにギリギリアウトの時間だから。
前日までの雪でトレースはほぼ埋まっており、微かにルートが分かる程度。そのうち早々にトレースも消え、完全なラッセル一番手状態。そう言えば雪山で一番最初に突っ込むともれなくラッセル当番が回ってくるんだった。
この多く人が入る西大巓のルートで、序盤からトレースが完全に消えているのは今回が初めて。どんだけゴン降りしてくれとんねん。
思わずフルラッセルとなったが今日の武器はスキーなので、それほど沈み込まず体力は削られない。これがスノーシューだったら結構大変だったのは間違いない。闇夜にヘッドライトで照らし出されたスノモンは立派に育っている。
困ったのはラッセルよりルートファインディング。冬に西大巓に来るのは4度目で何となく地形は覚えているのだが、真っ暗闇でガスっていると、GPSを時折見ながらでもまともに真っすぐに歩けない。大きなツリーホールや段差を回避しているうちに方向がズレてしまう。GPSを持っていなかったら、考えただけでも恐ろしい。とてもナイトハイクなんぞ出来ない。
迷々のファーストトレースを刻んでしまって申し訳ないが、暗くて真っすぐ歩けないのは仕方がない。最終的に方向は間違いないから。
ゲレンデトップまでは晴れていたのだが、山頂に向かうにつれ雲の中に入るいつものパターンへ。暗闇のホワイトアウト。夜明け時刻になっても雲がとれる気配はない。今回も昨年に続き、朝焼けナイトハイクは失敗した。
07:00 晴れていないので急いでも仕方なし。最後はルートを外さないようゆっくり慎重に登って、西大巓到着。もうガッスガス。いそいで山頂スノモンの影に隠れて、僅かながら風を防ぎつつ最大防寒に装備を整える。気温は氷点下13度、風あり。昨年の氷点下16度と比べれば幾分ましかと思えた。
西大巓山頂(07:00-09:50)
EOS R5+RF14-35mm F4L IS USM 21mm f14 1/250sec ISO100 PLフィルター
今日は晴れ予報なので、今はガスっていてもそのうち晴れるはず。最大防寒に整えて、凍り付く前のおにぎりを胃袋に押し込んでエナジー補給していると、ガスが流れて日差しが届き始める。キタキターっ!東北地方の天気は難しい。いつもながらこんなパターンが多い。
時折見え始める青空とスノモン。そして遠くの山並みまで一瞬見渡せるときもあるが、またガスに覆われる。そうこうしているうちにだんだんと晴れるタイミングが多くなってくる。もう少しだ!頑張れ太陽。しかし今日はなかなか晴れてくれない。一瞬だけだがスノモンが埋め尽くす西吾妻山稜線が見える瞬間は心が躍る。山は嵐から明ける瞬間が美しい。スカッと晴れ渡った写真もよいが、この荒々しい瞬間を捉えた写真の方が自分的には好みだ。
ここからいよいよ晴れるかー、と思っているとまたガスに覆われ太陽も完全に隠されてしまった。クソ寒い中待っていてもいっこうに晴れてこない。え、マジで?このまま西大巓山頂で待つか、西吾妻山まで行くか、それとも今日はこの山域は晴れないとして帰ってしまうか。せっかくここまで来たのに、との思いからかなかなか考えがまとまらない。
極寒の山頂でウロウロしていたら既に時刻は8時50分。2時間近く経っとるではないか。もうそろそろ限界だ。西吾妻山は諦めて、今日晴れるならばその晴天を磐梯山に使おうか。シールを剥がして滑走モードにチェンジ。誰もいない西大巓山頂から滑り始める。
少し滑り下りると、ぶわぁ~っと雲が流れて、今まで以上に青空が大きく広がってきた。これは確実に晴れるわ。いそいでスキーでまた登り返し。再び訪れた西大巓山頂からは、大展望が開け始める。大きく育ったスノモンとまだ雲がかかる磐梯山。桧原湖は結氷しているのか真っ白。山頂スノモンと真っ白な飯豊連峰も見えてきた。
おおおおお、くるかくるか!そして徐々にスノモンが雲から現れ始め、ついに西吾妻山まで晴れ渡った!冬の嵐のおかげで、スノモンは完璧に白く大きく、人の足跡が1つも残っていないパーフェクトな雪景色が目の前に現れた。やったね!朝焼けは撮れなかったけれどこれはこれで良しとしよう。
EOS R5+RF100-500mm F4.5-7.1L IS USM 159mm f11 1/250sec ISO100 PLフィルター
ここまで晴れたらこっちのもの。パーフェクトな条件で余すところなく撮り尽くす。こんなときのために、最高画質で撮るために担ぎ上げた100-500mmの超望遠レンズの出番が来た。スノモンの奥には飯豊連峰。もう白い塊でなんだかわかりません。w そして北に少し離れたところには、これまた真っ白な朝日連峰。なんとなく一番尖がった山が大朝日岳というのは分かるぞ。
そして穢れなき雪の斜面を覆い尽くすスノモンを撮ってゆく。いや、凄いスノモンの数だ。これを絶景と呼ばずしてなんと呼ぼう。西吾妻山のスノモンの稜線の奥に見える真っ白い山は蔵王かな。その奥にも白い高い山が見える。東吾妻山方面もスノモンでびっちし。けど西大巓~西吾妻山のスノモンの方が明らかに大きい。のっぺりとした西吾妻山山頂はこれまたスノモンで覆い尽くされている。凄いね、スノモン数えようと思えば数えられるけど。w
反対側の磐梯山を見れば、まだ磐梯山は雲に覆われている。よかった、今日は磐梯山に登るのではなく西吾妻山が正解だった。このエリアには磐梯山、安達太良山、吾妻連山と大きな山々が隣り合っているが、片方に雲がかかっていて片方が晴れていたりと、なかなか天気の読みは難しい。一応スキーで来たぞ、というスキーの写真も記念に撮っておく。
09:50 そろそろ西吾妻山へ向かいましょうか。いまだに後続者は現れない。ノートレースの斜面を滑り降りていく。最高だ!これはスキーでしか味わえない極上の楽しさだ。
縦走(西大巓 09:50- 西吾妻山11:00)
EOS R5+RF14-35mm F4L IS USM 14mm f16 1/160sec ISO100 PLフィルター
滑り下りた鞍部にも、成長したスノモンがいっぱい。残さず写真に収めてゆく。振り返れば西大巓から自分の1本のトレースのみ。まだ誰も登ってこないのね。この超人気の山域で稜線独り占めとは。リフトが動くゲレンデをわざわざナイトハイクした甲斐があったというものだ。
スノモンの向こうには安達太良山も見え始めてくるが、安達太良山もいまだに雲の中。今日は西吾妻山にしておいて本当によかった。天気って難しい。
EOS R5+RF14-35mm F4L IS USM 14mm f16 1/160sec ISO100 PLフィルター
鞍部まで滑り終えた後は、シールを貼り直してハイクアップ開始。このスキーのモードチェンジが結構大変。シールを剥がすのも力が要るし、シールに雪を付着させると今度はシールが剥がれやすくなったりと、楽なことばかりではない。
誰もいないノートレースの穢れのないスノモンヶ原を進んでゆく。スノーシューのように沈み込まずに楽に移動できる。スキーでの雪山トレッキングが、山をやっている中で一番の極上の体験だと思えてくる。こんな素晴らしい景色の中を歩けて、今後雪山は樹氷トレッキングに重点を置こうかと思えてくる。
西吾妻山に近づけば、背丈をゆうに超える大きなモンスターが待ち構えている。スノモンの間を掻き分けるように登ってゆく。振り返れば今度はスノモンと先ほどいた西大巓。そして端には飯豊連峰。どこを切り取っても絶景だ。スノモンの海の傾斜が緩くなれば、間もなく西吾妻山山頂だ。
西吾妻山山頂(11:00-12:00)
EOS R5+RF100-500mm F4.5-7.1L IS USM 100mm f16 1/250sec ISO100 PLフィルター
11:00 スノモンを掻き分けてだだっ広い空間に出ると、そこが西吾妻山山頂。広い空間にスノモンが並ぶ異世界のような光景だ。スノモンに下部が遮られるが、周囲の山並みが見渡せる360度の展望。西吾妻山山頂も自分一人。冬の嵐後、自分が一番最初の登頂者のようだ。誰もいない山頂から山頂景色撮りまくり。
西大巓から山頂スノモンを超えて反対方面へ出れば、東側の展望が開ける。晴天が約束されたこの機会に、西吾妻山だけでなく東吾妻山方面へ、行けるところまで行ってみても良いかと思ったけれど、東吾妻山方面はやや雪が少なく白く雪で覆われていない斜面が多い。そうであれば西吾妻山まででいいか。
北側遠くには真っ白い高い蔵王連峰が連なる。蔵王も今日これだけ晴れ渡っているのであれば、蔵王という手もあったな、とかとか。
しばらくすると、西大巓からと天元台スキー場からの後続者たちが西吾妻山山頂に続々と到着し始めた。
EOS R5+RF100-500mm F4.5-7.1L IS USM 123mm f11 1/400sec ISO100 PLフィルター
絶好の機会なので、ここでも超望遠レンズで周囲の山々切り取りまくり。
まずは北北西方向の朝日連峰。手前の西吾妻山のスノモンと合わせられて素晴らしい。南東方向はスノモン越しに安達太良山。お昼近くになって、安達太良山もようやく雲から現れた。乳首までくっきり。安達太良山も完全に真っ白くなって、今登っている人達は最高の景色を味わっているに違いない。超望遠レンズでもさすがに安達太良山山頂の人までは捉えることは出来ない。w
南方向には、こちらもようやく雲がとれた磐梯山。磐梯山も真っ白。こんな好条件のときに登りたいな。ダブルヘッター計画で夕方に登る計画だったけど、天候回復待ちで時間を取られ過ぎて、ちょっと今日は難しくなってきた。磐梯山の奥の高い白い山々が気になる。
先ほどまでいた西大巓には人がいっぱい。リフトの動くゲレンデを、営業時間外にナイトハイクするおバカな登山者は、今日は自分以外にいなかった様子。西大巓の奥の荒々しい山々が迫力あり。南会津の山々だろうか。全部登ったことあるはずなんだけれど。スノモンヶ原を縫うように登山者が次々と登ってくるのが見える。山頂風景も撮り尽くしたし、次の磐梯山もあることから、そろそろ下山しましょう。
縦走(西吾妻山 12:00-13:00 西大巓)
EOS R5+RF14-35mm F4L IS USM 16mm f16 1/200sec ISO100 PLフィルター
西吾妻山山頂のスノモン群の中を、なんとかスキーで歩いて下る。この狭い空間の下りでスキーを操るのに難儀する。こういうところはスノーシューが一番だな。スキーもスノーシューも(アイゼンも)一長一短。ツボ足で歩いた方が早いので、結局スキーを外して下る。
パーフェクトに成長したスノモンたちとお別れするのが名残惜しい。朝焼けは撮れなかったけれど、これ以上最高のスノモンに会うことは難しいだろう。少し下りては山頂を振り返りながら。
鞍部まで滑走したいところだが、鞍部と西大巓山頂で2回スキーのモードをチェンジするのが面倒だ。西吾妻山から鞍部までは傾斜が緩いので、シールを付けたまま歩き下ることにしたが、スキーのモードをチェンジする面倒臭さはないが滑走を楽しめないもどかしさはある。シャーっと滑れたら楽しいんだけれど、シールを剥がしてまた貼ることを考えると、なかなか悩ましい。
せっかくシール歩行しているので、行きには通らなかった西吾妻小屋付近のスノモン見学に行ってみる。大きく成長したスノモンと奥に見える朝日連峰の組み合わせが素晴らしい。西吾妻小屋が真っ白く、お菓子のハウスのようになっていた。
鞍部から西大巓まではやや傾斜のある斜面の登り返し。真夜中からリフトを使わずハイクアップしてきたからか、はたまは久しぶりの登山からか、なかなかしんどくなってきた。けどここを登り切れば後は滑って下りるだけ。振り返ればまだまだ全面真っ白な西吾妻山。最高の景色をありがとう。次もう1回来ることはあるだろうか。
下り(西大巓 13:20-14:30 グランデコ)
EOS R5+RF14-35mm F4L IS USM 25mm f11 1/320sec ISO100 PLフィルター
13:00 西吾妻山からゆっくり1時間かけて登り返して再びの西大巓山頂。もうダブルヘッターの磐梯山は赤信号だが、諦めず早々に滑走モードにチェンジして下山に取り掛かる。日光をたっぷり浴びた午後の雪は重たくなりかけていたが、まだ自分のスキー技術でも下りれる程度に雪は死んではいない。多くの登山者が踏んだボコボコ斜面は滑りづらいので、できるだけ踏まれていない斜面を滑り降りる。振り返ればさらに輝きを増す西吾妻山。
西大巓直下のスノモンも大きく成長して立派なことと言ったら。登山道の脇にオープンバーンがあるので、せっかくなので登山道を外れてオープンバーンを滑ってみることに。昨年とんでもない濃いいホワイトアウトを食らって、氷点下16度でスマホGPSが死に、予備バッテリーでも生き返らず、遭難寸前に陥った場所だ。w
EOS R5+RF14-35mm F4L IS USM 14mm f16 1/200sec ISO100 PLフィルター
西大巓直下のスノモンも、大きく成長して見上げるほどの大きさ。西吾妻山のスノモンは”リトルモンスター”と呼ばれることもあるが、とんでもない大きさだ。100%雪に覆われて、黒い枝が飛び出ていないのが素晴らしい。
自分のバックカントリースキーの技術が未熟なのは重々承知なうえ、撮影機材でレンズ3本(2本のつもりだったが持ってこない予定のレンズが1本入っていた)と三脚まで背負った重荷なので、怪我だけはしないように慎重に。重たい雪だけどなんとか滑れて楽しめた。
ここのオープンバーンを気持ちよく滑ってしまった後に待ち受けるのは、巨大なスノモン密集地帯。人がスッポリはまるほどの大きなツリーホールが連続し、とても自分の技術では滑れない。登山道に合流するために、トラバースでスノモン密集地帯を回避する。
14:10 標高を下げるほど雪質は重たくなるが、何とか転倒せずゲレンデトップまで帰還。まだヒヤヒヤだけど、スキーを楽しみつつかつ早く下山できるバックカントリースキーって最高だ。
ここまでくれば、後はゆっくりゲレンデを流して帰るだけ。ゲレンデからは正面にくっきり磐梯山。あと1時間半くらい早く下山できていれば、夕焼けを撮りに磐梯山行けたんだけれど。かといって、夕焼けを撮るために西吾妻山の稜線で夕方まで粘ることもできない。今日は朝焼けも夕焼けも撮れなかったけれど、西大巓~西吾妻山の最高のスノモンが撮れて、これはこれでベストだったといえよう。
下山しても夕景を逃すのはもったいないので、猪苗代湖湖畔の志田浜から夕景撮影。夕暮れ時には若干空が霞んでしまってほのかに焼ける程度。磐梯山はまた次の機会に。吾妻連峰、安達太良山、磐梯山と楽しめる本当によいエリアだ。夕日の沈む猪苗代湖では、白鳥と水鳥の鳴き声だけが響いていた。
今日も一日燃やし尽くして、よい一日だった。
吾妻連峰の山行記録