北アルプス

〔200名山〕霞沢岳_冬 ~チャリアプローチで駐車場問題クリア!ようやく辿り着いた穂高の朝焼け~

登れる雪山も残り少なくなってきた。そんな中、依然と残っているのが冬の霞沢岳。
冬の霞沢岳は、①駐車場をどうするか問題と②雪壁難所問題の2つの懸念事項があり、まだ一度もチャレンジできていなかった。まずもって山頂から朝焼け撮る時間帯に、坂巻温泉に前夜泊しない限り車を止める場所がほぼない、というネックが大きい。

いつまでも残しておいても状況は変わらない。電動チャリという秘密兵器を引っ提げて、霞沢岳を1回で撮り切ろう。

 

登山ルート

〔距離〕22km/〔累積標高〕1,960m
〔山行〕8時間50分/〔休憩〕2時間50分〔合計〕11時間40分

 

山行記録 2025年2月25日(23:30-12:00)

アプローチ(沢渡 23:30 ⇒ 23:50 中の湯ゲート 00:00 ⇒ 00:40 霞沢岳西尾根取付)

EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 33mm f4 0.3sec ISO640 PLフィルター

以前、上高地から入って釜トンネルを超えてはるばる冬の蝶ヶ岳まで行ったとき、国道158号線から上高地までの歩きが長すぎて悶絶した。そのとき見たのが、自転車で釜トンネルを超えて、霞沢岳の登山口までアプローチしている登山者だ。硬い冬靴で釜トンネルを歩くのは辛すぎる。トンネル内は凍ってないし、凍結していない雪道であれば自転車でもそこそこ走ることは出来る。次来ることがあれば、絶対チャリでアプローチしようと思っていた。

それから長い年月が経ち、電動チャリ(以下ザクと呼ぶ)を手に入れ、再び釜トンネルを超えるときがやってきた。
できるだけ釜トンネルに近い場所からスタートしたいので、坂巻温泉の入出庫時間の21時前に到着して駐車可能か聞いてみる。詳細は割愛するが、車中泊をしなくても宿泊者以外で前夜に入庫させるつもりはないようだ。当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが、初っ端から塩対応。

目的地を変えようにも、ここのエリアで霞沢岳以外で自分が登れる冬山は登り切っているので、今日の目的は霞沢岳以外に変えようがない。走る距離は倍以上遠くなるが、沢渡に止めてザクでアプローチすることにした。国道158号線の凍結は部分的で、電動アシスト付きということもあり、中の湯ゲートまでチャリで走る分には問題ないだろう。

23:30 もう少し遅く出ても間に合うと思えたが、頭に血が登っていたのかあまり眠れず、早々に出発することにした。
冬の霞沢岳を難しくしているのは、駐車場問題や雪壁の難所問題だけでなく、国道158号線を歩かなければならないという危険がある。国道158号線の歩道は雪で覆われているか凍り付いているのでほぼ歩けず、車道を歩くことになるのだが、大型車の往来がありとても危険なのだ。

そのことを考慮し、チャリアプローチで持ってきた装備が2つ。
超絶明るいテールライトと泥除けフェンダーだ。後方に発行体を付けずに歩く歩行者より、明るいテールライトをつけて堂々の車道を走る自転車の方がよほど視認性が高く、接触または跳ねられるリスクが少ない。
また帰りは雪解けで濡れた車道を走るため、泥はねを避けるために泥除けフェンダーがあった方が良いと考えた。

ここでもザクの威力は絶大だ。重い冬山装備を背負っていても、僅かな力でスイスイと釜トンネルまでの坂道を登ってくれる。たまに車が通るが、はっきりと認知してくれているらしく、大きく巻いて通過してくれた。坂巻温泉まで10分、釜トンネルの中の湯ゲートまで20分で楽々到着することができた。これで駐車場問題は解決した。

釜トンネルからがお楽しみのチャリ区間、と考えていたところ、なんとデカデカと「冬期閉鎖期間自転車進入禁止」の注意書きが張られているではあいか。なにーっ!
昔来たときはチャリは禁止はされていなかったはず。そして人もまばら、車も通るか通らないかの閑散とした冬期釜トンネルでなぜチャリが禁止されるかの意味が分からない。人が歩いているから危険なのか?凍結しているから危険なのか?ごく稀に車が通るから危険なのか?どう考えても分からない。想定外のことに混乱と怒りにも似た感情が。なんでもかんでも禁止にしてくれちゃって。

ザクは中ノ湯ゲートの邪魔にならないところにデポしていくことにした。そこからトンネル2つの長いことと言ったら。トンネル内は凍結もなく、ザクだったら一瞬で上り下りできるのに。トンネルを出たら締まった雪道。こんな雪道を電動MTBで走ることを楽しみにしていたのに。残念で仕方がない。

00:40 結局、中の湯ゲートから1時間近く歩いて、霞沢岳西尾根取付に到着。取付点は前日の登山者の足跡でいっぱい。初めての雪山。どのくらいかかるか分からない。アイゼンを装着して早々に登りにかかる。

登り(霞沢岳西尾根取付  00:50 ⇒ 05:50 霞沢岳)

EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 25mm f4 0.8sec ISO4000 PLフィルター

毎度ながら雪山のナイトハイクは怖い。人がいないこんな山中を歩いていてよいものか?と思ってしまう。初めての雪山であればなおさらのこと(秋に一度登頂はしているが)。
道は分かるだろうか?ラッセルはあるだろうか?極低温や強風に晒されるのではないか?雪壁は超えられるのだろうか、などなど、あらゆる心配事が襲ってくるが、一歩歩きだして行動し始めれば気持ちは落ち着く。

前日までの入山者のトレースがあるから大丈夫だろう、とトレースやラッセルの心配はしていなかったが、前夜に少し雪が降ったのか風が強かったのか、序盤からサラサラの雪でトレースはほぼほぼかき消されていた。サラサラの雪を踏みしめるプチラッセル作業が加わる。

ルートはずっと急登とのことだが、巻かずに直登させてくれるので、効率よく標高が稼げて自分としては急登は好きだ。急登と言っても、急登の合間に小刻みに僅かな平坦区間を挟むので、休憩が取りやすくて助かる。傾斜は、前半の方がきつくて、後半はやや緩くなるので、後半苦しくならずにこれまた登りやすい。

問題の雪壁がいつ目の前に現れるのか、とおっかなびっくり登ってきたが、2,500m付近でようやく樹林帯から出てそれらしいナイフリッジの稜線歩きとなる。キタキターっ!最近山から離れていたこともあり、以前は少しワクワクしていたことが今は怖い。何事も起こさないよう、極力慎重に行こう。森林限界が高いので、その点は少し安心した。
ウィペット×2本でサクサク登ってきたが、ここでウィペット×1本とピッケルを換装。ピッケル持つ山って、久々かもしれない。

ナイフリッジの稜線を慎重に歩いていくと、闇夜の中からヘッドライトに照らし出された雪の稜線が眼前に現れる。ひえー、ついに来たよ雪壁。おっかねーっ!しかも真っ暗だし。w
この雪壁を越えなければ、栄光の穂高の朝焼けはない。雪壁なんて、今まで幾度も超えてきたではないか。一歩ずつ着実に雪壁に近づいていく。近づいていくと壁の難易度がより分かってくる。
うん、今まで経験したおっかない”雪壁”よりは幾分ましかな。以前経験した、赤石岳や農鳥岳、奥穂高岳等の雪壁が思い出される。慎重に行けば大丈夫な感じだ。

岩場はほぼ雪で覆われていて、ところどころ岩が露出している。”雪と岩のミックス”という状況ではなく、アイゼンがうまく効きそう。固定ロープが3本かかっている。ありがたや。ロープなしでも登れないことはないが、今の状況ではロープがあった方が安全。ロープを使わせてもらって、慎重に雪壁を登り切った。よかったよかった、一安心。天候が安定していて風がなかったのも助かった。もし天候が悪く、強風が吹き荒れていたならばかなり嫌だっただろう。そんな状況下でロープがなかったら、帰っていたかもしれない。w

雪壁の難所を超えれば、もうすべてクリアしたのと同然。傾斜の緩くなった稜線を、明るくなり始めた東の空に向かって歩いていくだけ。自分1人だけのトレースを刻んでいくのが楽しい。雪山の楽しさを再認識した感じだ。

霞沢岳山頂(05:50 ⇒ 07:40)

EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 24mm f16 1/10sec ISO640 PLフィルター

1時間当たり標高300-400m上げる普段のペースで歩くと早く登頂しすぎて、クソ寒い稜線で夜明けを待つことになる。それはそれでとっても厳しい。かなり余裕がある出発だったので、ゆっくり牛歩で登ってきた。

05:50 ヴィーナスベルトが上空から下りて来るちょうどよい時間帯に、霞沢岳山頂着。天気予報通り晴れ渡り、雲一つなし。そして厳冬期にしてまさかの完全無風。氷点下14度でそこそこだが、無風なのは有難い。駐車場問題やら、来るまでが大変だった霞沢岳だが、ここまで完璧だ。
時間に余裕があったので自撮り。冬山の装備が自分の中で完成されて、ここ数年、一部の消耗品の入れ替えはあるが装備はほぼ不変。登山用品って意外と長持ちする。

撮影準備を整えて待っていると、奥穂高の穂先から真っ赤に染まり始める。東の空を見れば、蓼科山の北側から火球が昇る。ナイトハイクの疲れが吹き飛ぶ瞬間。
ピンク色に染まる僅かな時間内に、撮れるだけのカットを撮りまくる。最初は超望遠レンズ100-500mmで奥穂高と日の出を撮る。次いで標準レンズ24-70mmに切り替えて、メインの朝焼けに染まる雪原を入れての奥穂高。やや染まる雪原が少ないか。

EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 30mm f16 1/13sec ISO100 PLフィルター

反対側の焼けた雪原と乗鞍岳を狙う。一番乗りで誰の足跡もついていないのが良い。あとはひたすら超望遠の100-500mmで切り取ってゆく。乗鞍岳の隣には御嶽山。御岳山の夕景は撮ったことがあるけれど朝焼けは狙ったことがない。まずそこまで行くのが大変。w

前穂高のギザギザスカイラインも焼ける。笠ヶ岳の笠槍も日が当たり始めてきた。奥穂高は徐々に光が当たる部分が増えてくる。乗鞍岳も超望遠で切り取る。意外と雪少なめか?ゴツゴツ岩部分が雪でやや隠れていない。その隣の山も綺麗にピンク色。西穂高も雪で滑らか。西穂高まではもう行けないかな。正直怖いかも。
西には霞沢岳よりもかなり低い位置に焼岳。焼岳山頂には人がいないことを確認した。w 背後の赤く染まる雲海が美しい。そして遥か遠くには白山連峰。冬期はね、行けませんね。

橙色に変わる頃には、全方位を撮り終えることができた。

EOS R5+RF100-500mm F4.5-7.1L IS USM 270mm f11 1/20sec ISO100 PLフィルター

朝焼けが終わっても、まだまだ撮影は続く。真っ白い雪山の写真も撮っておきたい。やはり一番のメインは奥穂高。降雪直後で滑らかな雪を纏った奥穂高が美しい。

稜線の奥にはピラミダルな常念岳。いや、もう苦しさしか蘇らない。何度チャレンジしても朝焼けに間に合わない山。w 笠ヶ岳にも日が回ってきた。冬期に行ってみたいけどね、厳しすぎる。従える谷の深いところと言ったら。あそこをスキーヤーが登っていくだなんて。同じスキーヤーとして恐怖でしかない。内陸の山々はもっと白い。近年冬山以外でも立ち入れていない。

EOS R5+RF100-500mm F4.5-7.1L IS USM 151mm f11 1/250sec ISO100 PLフィルター

山頂に1時間以上いたら、周囲の山々にもすっかり日が回るようになった。穂高の次に目を引くのがやはり笠ヶ岳。巨大な白い山塊。とても人を寄せ付ける隙が見当たらない。素晴らしい。

奥穂高もだんだん日が回って、いい感じになってきた。そろそろ帰りますか。最後に霞沢岳の看板を入れての穂高連峰。このカットいいな。だいぶ自分で足跡つけてしまったけれど。
シュカブラと奥穂高を横目に見ながら、雪面に1つだけ残る自分の足跡を辿る。

下り(霞沢岳 07:40 ⇒ 10:00 霞沢岳西尾根取付)

EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 24mm f16 1/80sec ISO100 PLフィルター

目的を達成したので、後は安全に帰るだけ。難所の下りが残っているので、気を抜かずにより慎重に。焼岳に向かって標高を下げていくと、稜線はナイフリッジと化してくる。いよいよ難所が近い。下りは登りよりも慎重に。固定ロープを有難く使わせてもらった。このロープが使えるか使えないかで難易度が全然違ってくるのは間違いない。
これだけロープがあるのが有難いのであれば、赤石岳の雪壁にもロープ張っておこうかな(切れそうな残置ロープはあり)、とか思ってしまう。w

下りは難しいが、一度登っているからそれほど恐怖は感じない。基部まで辿り着いて一安心。見上げるとやっぱりすごい斜度。稜線を辿って振り返って見ても、ひえーという感じ。難所を超えて余裕が出てきたので、きっちり難所の写真を撮っておこう。結構雪庇が張り出していて、もう少し際に寄ると危ないかも。というか、今お前がいるところも大丈夫か?w

難所を下り切って、ようやく肩の荷が下りた感じだ。最後に難所を振り返って、もう来ないかも。貴重な経験をさせてくれてありがとう。穂高はさらに日が回ってきた。反対側の乗鞍岳も以前まっ白。この辺で後続者とスライドし始める。口々に「早いですね!」と言われるけれど、これが自分の通常なんです。w

後は急斜面を下りるだけ。後続者によって立派なロードが仕上がっている。霞沢岳の難所は2,500m付近の雪壁だが、これ以外に序盤にもちょっとした雪壁が存在する。この急斜面のバリエーションルート、雪が緩んで登れなくなった頃が賞味期限だろうか。
標高を下ろせば、眼下に大正池が見え始める。樹林帯の合間から見る真っ白い穂高もいい。

10:00 急斜面を下り切って、取付地点に到着。難所の雪壁を慎重に下りるのと撮影で時間をかけたが、その後はやはり早かった。10分毎に100m下りるペース。

大正池から下り(10:40 大正池 11:00 ⇒ 11:40 中ノ湯ゲート11:50 ⇒ 12:00 沢渡)

EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 38mm f11 1/125sec ISO100 PLフィルター

天気は依然として好天。本来の予定では、上高地までザクで乗り入れて散策・撮影予定だったが、ザクはない。歩くのはかったるいが、ここまで来たからには冬の上高地を見ておきたい。
う~ん、どうしよう。今日は終日天気がもつ予定なので、午後は十石山に登って夕景を撮ろうと考えていたのだけれど、上高地を散策すると厳しくなってしまう。

ちょうど通りかかったハイカーの方に、「この先で綺麗な写真が撮れますか?」と聞いたら、「大正池からは逆さ穂高などが撮れるので是非是非」とのこと。教えてくれてありがとうございます。なかなか来にくいエリアなので、この際に上高地散策もすることにした。

霞沢岳西尾根取付から40分くらい歩いて大正池。周囲を雪に覆われた大正池の奥には真っ白な穂高連峰。いや、テンション上がるね。写真的にはベタ光線になってしまっていて、手前のカラマツ林が霧氷になっているといいのだろう。そういう写真は狙ってくるしかないけれど、今日はこの景色を見られたことだけでも満足した。やはり白い穂高はきれいだな。焼岳もね。上高地って素晴らしい。何度も訪れて心のふるさとのようだ。

帰りは中の湯ゲートまでトンネル2つを超えてひたすら歩き。う~ん、チャリが使えていたらこんなの一瞬なのに、雪道走れたら楽しかっただろうに。
中の湯ゲートからは残置していたザクを回収。うっぷんを晴らすかのように、国道158号線を快走。何もしないで乗っているだけで、坂道を軽快に走っていいく。中の湯ゲートから5分で坂巻温泉までついてしまった。

12:00 沢渡までもあっという間。山行後のチャリが軽快すぎて楽しすぎる。このまま松本までダウンヒルを楽しんでしまいたい。w
駐車場問題やら雪壁難所問題やらで、なかなかチャレンジできなかった霞沢岳。1回のチャレンジで朝焼けを撮り切れてよかったよかった。冬期でチャリが禁止されていない時期に、チャリで上高地まで行ってみたい。

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