北陸地方には、登山道がなく冬期にしか登れない名山がいくつかある。200名山の笈ヶ岳、300名山の野伏ヶ岳と猿ヶ馬場山などなど。
野伏ヶ岳は2年前に登ったので、残るは笈ヶ岳と猿ヶ馬場山。笈ヶ岳は遠くて手強いので、今回は猿ヶ馬場山にしておこう。200名山最難関と言われる笈ヶ岳が有名だが、猿ヶ馬場山も駐車場問題やら豪雪地帯ならではの雪深さなど、決して簡単な山ではなさそうだ。
登山ルート
〔距離〕22km/〔累積標高〕1,500m
〔山行〕6時間40分/〔休憩〕2時間40分〔合計〕9時間20分
山行記録 2025年3月1日(00:50-10:20)
登り(白川郷道の駅 00:50 ⇒ 1:10 登山口 1:30 ⇒ 06:10 猿ヶ馬場山山頂)
EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 32mm f11 1/100sec ISO100 PLフィルター
猿ヶ馬場山の駐車場問題とは、白川郷のせせらぎ公園駐車場の営業時間が8-17時のため、8時より早く登り始めることができないという問題だ。そもそも自分は山頂から朝焼けを撮影したいので、せせらぎ公園駐車場はまったく使えない。しかも8時から登山開始したとしても9時間以内に帰ってこないといけないため、雪の状況次第では駐車場の営業時間内に戻ってこれないリスクもある。
そうすると、夜間出入り可能な駐車場から自転車アプローチをするしか方法がない。数日前に行った霞沢岳と一緒のパターンだ。ということで、またまた電動アシスト自転車(以下ザクと呼ぶ)の出番が来た。
00:50 白川郷道の駅から登山口まで、約3kmのチャリアプローチ。チャリにスキーに撮影機材を背負い、総力戦だ。電動アシスト自転車で坂道もない平坦路なので、3kmなんて楽々あっという間。夜の白川郷は寝静まっている。闇夜に照らし出される白川八幡神社。こんな時間に山に入るなんて、とっても酔狂な人間に違いない。w
登山口は明善寺からさらに奥に入った宮谷林道。今年はまだほとんど山行記録が上がっておらず、もしかしたら最初からノントレースかと思っていたが、意外にも数名のトレースがあった。よかった。
標高差が1,400mあり、上部でどのくらいの降雪がありラッセルを強いられるのか分からない。夜明けまでに十分時間があるとは言えないので、早く出発したいがここで問題が1つ。周りは杉林のため、ザクを地球ロックするための人工物が何もない。チャリを盗られては大損害。なんとかワイヤーロックで地球ロックできるだけの細い杉を見つけて括り付けることができた。
01:10 スキーを履いていざ出陣。標高差1,400mもある山をスキーで登って下りてこられるかが心配だったが、経験を積まなければ進歩もない。最後までスノーシューで行くかスキーで行くか迷っていたが、積極的にスキーで行くことにした。
トレースに助けられながら順調に標高を稼いでいく。序盤から思っていた以上に結構急。ここでこれだけ急だったら、尾根道ではなく、谷筋を行き大シラビソ平へ登り上げるスキールートの急斜面はどんなんだろう?と心配になってくる。
初めての山でしかもスキーでのナイトハイク。地形は頭に入れてGPSも準備しているが、周囲の地形が暗くて把握できないので、GPSがあろうとも雪道を正確にルートファインディングするのは困難だ。トレースがなかったら結構厳しいだろうぐらいに、あまり人が入らない雪山を甘く見ていたことを反省したが、運も実力のうち。昨日のものか一昨日のものか分からないけれど、トレース頑張れ!
さすがの豪雪地帯の山。ツボ足だと膝まで沈んでいる。序盤から膝まで沈んでいる山を登頂できるわけがない、と思っていたら、ツボ足トレースは宮谷林道出合付近で途切れていた。あとは薄っすら残るスキートレースの1本のみ。やっぱりこの豪雪地帯の山、スノーシューかスキーが必要だと思われる。
3:00 宮谷林道出合まで来ると、尾根道とスキーヤーが使う谷筋に分かれる。直前までどちらで行こうか迷っていたが、唯一残ったスキートレースは谷筋に進んでゆき、尾根道にはトレースなし。ここはもうトレースのある谷筋でしょう。尾根道を選択したら、ルートファインディングとフルラッセルで、夜明けまでに山頂に届かないのは明白だ。僅かに残るたった1本のスキートレースが山頂まで続いていることを祈って、谷筋を進む。
宮谷林道出合から第一渡渉点までは、緩やかに登るほぼ平坦の谷筋を行く。谷は切れ込んでいるが、次第に谷が近づいてきたところが第一渡渉点。今年は雪が多いのか、完全に谷は雪で埋まっていた。
渡渉?を終えたら、そこから大シラビソ平までの標高差約500mの超急斜面を登ることになる。ライトニングアッセントで登るならば怖くはないが、超急斜面をスキーで登るのは怖い。クライミングスキンの摩擦力を越える斜度になるとずり落ち始めるからだ。今日の雪質は昨晩に雨に降られたのか、サラサラ感がなく固め。ところによってはガリガリ。早々にスキーアイゼンを装着する。
先行者のトレースがうまくジグを切ってくれていて非常に助かるが、雪が硬くてスキーアイゼンを装着しても急斜面が厳しい。急斜面でキックターンするたびに緊張が走る。1回ずり落ちかけて肝を冷やした。スキーアイゼンを持ってこなかったら、今日の山行は完全に敗退していただろう。これから雪が締まってくる季節、早い時間に登る人はスキーアイゼンを持ってきた方がよいと思う。
闇夜の中、緊張を強いられる急斜面の登りが続く。滑落しないように慎重に行きたいが、刻一刻と夜明けの時間が迫ってくる。もう少し余裕を持って早く出発しておけばよかったな。
1,600mくらいまで登り上げると傾斜が緩くなり、急斜面から解放される。とりあえず助かった(下りは滑り降りれるか分からないけどw)。ここまで標高を上げると、前日の雨は雪に変わっていた。スキートレースはほぼ見えなくなる。
1,650m付近のポコをどうやって巻くかが心配だったが、スキートレースが復活し、なんとかポコを巻いて帰雲山からの稜線に合流することができた。
稜線に合流すると、降雪によりトレースなし。ここまで導いてくれたスキートレースが、「後は自分でルートファインディングしなさい。」と言っているようだった。OK!今までありがとう、あとは自分で進むから。w
明るくなり始めた空の下、三角点ノ台地に向けて、だだっ広い稜線を進む。まだまだ登らされるが、先ほどの大シラビソ平までの急斜面に比べたらなんてことはない。ジグを切るまでもなく直登していく。振り返れば姿を現した真っ白い白山。ああ、そういう位置関係だったね。天気は快晴。後は夜明けまでに山頂に着くだけ。時間はギリギリ。最後の最後でラストスパートだ。
06:10 三角点ノ台地に乗り上げると、北アルプスの山並みが眼前に現れる。三角点ノ台地まで乗り上げても、まだ猿ヶ馬場山山頂まで緩やかに登る。三角点ノ台地からは白山だけでなく笈ヶ岳~大笠山の展望が見えるが、山頂まで行ってしまうと笈ヶ岳~大笠山の展望が見えにくくなってしまう。笈ヶ岳~大笠山の朝焼けも撮りたかったため、山頂ではなく三角点ノ台地付近で日の出を迎えることにした。
猿ヶ馬場山山頂(06:10 ⇒ 07:40)
EOS R5+RF100-500mm F4.5-7.1L IS USM 118mm f9 1/60sec ISO100 PLフィルター
日の出を迎えると、一番高い白山から焼け始める。次いで南方の稜線越しの別山。厳冬期ばりに真っ赤に燃える。いつものように、担ぎ上げた超望遠レンズ100-500mmで切り取り始める。
今日の山行でいつもの厳冬期装備から変更したのは2点。三脚と暖かい飲み物が飲める魔法瓶を持たず、軽量化に努めた。スキーのハイクアップは体力が要る上、重装備だとスキーの滑走も鈍重になり危険ですらある。アイゼンやスノーシュー歩行ならまだしも、スキー滑走の場合は軽いに限る、と経験から思う。
今日は気温が上がり、山頂でマイナス5度。山頂までのハイクアップは暑すぎて、むき出しペットボトルで十分だった。そして穏やかに晴れ渡る天気で風も微風。昨今の強力な手振れ補正機能とウィペット2本を2脚にしてレンズを支えることにより、三脚なしでも500mmの超望遠域でブレずに撮ることができた。超望遠で切り取った焼ける御前峰と大汝峰が、あたかも近くで見ているようだ。
この軽量化でおよそ2kg弱。軽量化しなかったら、山頂朝焼けに間に合わなかっただろう。徐々に手前の稜線まで朝焼けエリアが下りてくる。超大変だったけど、頑張って来てよかった。
EOS R5+RF100-500mm F4.5-7.1L IS USM 223mm f9 1/60sec ISO100 PLフィルター
別山はもう真っ白。カッコイイ。手前の稜線で雪割れが目立つのを見ると、どことなく春山感が漂う。厳冬期の写真を撮りたいがそれは厳しいので、自分が登れるギリギリのタイミングだったか。何気に別山は未だに登ったことがない。毎回白山に登って見てるだけ。
猿ヶ馬場山から狙えるのは、なにも白山と別山だけではない。その北側には笈ヶ岳と大笠山の白い峰々が続く。チャレンジしたことはあるが、なかなか冬期に登山口にも辿り着けない笈ヶ岳。最難関の二百名山の1つであることには間違いない。今回も届かず猿ケ馬場になった。今年こそ行けるだろうか。
その隣は大笠山。紅葉の時期に登ったけど、部分的にげんなりするくらいの藪山だった。冬期に行けるのだろうか。笈ヶ岳からの稜線を見ると結構険しそうだ。でも行って見たいなー。その奥は大門山。
さらに東側に行くと、若干白さが減って高山感が少ない平べったい山が人形山か。いや、ほんと山深いね。グルっと東を見れば北アルプスの峰々。三角剱と台形立山は一目でわかる。谷にはナイスな雲海。
各山々のピークから日が下りてきたので、超望遠レンズから標準レンズに切り替えて、仕上げのカットを撮る。白山連峰、北アルプスから遠目に何度も撮ったよ。その隣の山々は北アルプスからは分からなかったけれど、今回分かった笈ヶ岳と大笠山。そして地味ーな人形山。笈ヶ岳以外は全部登った山々。さて、そろそろ山頂に戻ろう。
EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 24mm f16 1/100sec ISO100 PLフィルター
誰のトレースもないまっさらな雪原を歩く。まさにビクトリーロード。ツボ足だと膝まで埋もれる深い雪をスキーだと軽やかに移動できるのが楽しい。ここはもうスキーの独壇場。のっぺり山頂の向こうに乗鞍岳が現れてくると、もう猿ヶ馬場山山頂。
滑らかで広大な猿ヶ馬場山山頂。広い山頂の向こうには北アルプスの峰々と朝日。素晴らしい光景だ。笈ヶ岳と大笠山の朝焼けを撮りたかったため、撮影場所を山頂ではなく三角点ノ台地としたけれど、山頂で日の出を迎えたならば、ピンクに染まる広大な山頂と朝日の絵が撮れたのか。う~ん、どっちがよかったのか。片方しか撮れないから、これでよかったことにしよう。
山頂から見える北アルプスは遠すぎて米粒のようだが、この広々とした景色も素晴らしい。それにしても北から南まで北アルプスがすべて見える。北アルプスってなんて長いんだ。w
せっかくスキーで登ったので、北アルプスと朝日にスキー板を入れて写真を撮る。自分には到底無理だと思われたバックカントリースキーも、近年なかなかの出動回数だ。これだけの貴重な経験をさせてくれて、山スキーを始めて本当によかったと思える。いろいろ背景を変えて。北アルプスと朝日もいいけれど、やっぱり白山と一緒が一番かな。
乗鞍岳と御嶽山までくっきり。日が昇って色が抜けて、真っ白な世界に変わる。真っ白くなったら撮影終了。二度来るとはなかなか思えないので、白くなった山々も入念に撮っておく。
下り(猿ヶ馬場山山頂 07:40 ⇒ 09:50 登山口)
EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 24mm f11 1/160sec ISO100 PLフィルター
07:40 山頂景色を撮り尽くしたので、下山開始。シールを剥がして滑走モードへチェンジ。なだらかな山頂を滑り始める。振り返れば、自分だけのトレースが刻まれた山頂と朝日と北アルプス。いい山だったけど、なかなか大変だから二度来ることはあるかしら。
誰もいない広大な山頂を、笈ヶ岳と大笠山に向かって滑っていく。スキー場ではなかなか味わえない、最高のロケーション。この一瞬が楽しすぎる。西を見れば白山連峰。全方位が山!
三角点ノ台地までくれば方向を変えて、白山に向かって滑り降りてゆく。こっちのロケーションも最高だ。雪質はやや硬い雪面にパウダーが乗っている。小回りのシュプールを刻む。右側を登って左側に滑ってきた。この整地されたスキー場のようなバーンだったら、自分でもコントロールできる。
山頂快適ゾーンをあっという間に滑り降りて、1,650mのポコを若干登り返し。登ってきた急斜面の谷筋ではなく、緩やかな尾根を滑って帰ろうかとも思ったが、尾根はおそらくノートレース。ルートファインディングやスキーには適さないアップダウンが出てくるかもしれないことを考えると、安全に来た道を帰ることにした。
いよいよ急斜面に突入する。角度が変わる先が見えん。なかなかスキー場でもない斜度だよね。木、たくさん生えてるし。w
雪質はモナカまでにはいかないまでもちょいガリガリで、ターンしようとすると自分のスキー技術ではエッジが引っかかる感じ。平たく表現すれば自分の技術では、この雪質と急斜面ではターンできない。のは分かっているので、斜滑降でズリズリと標高を下げる作戦だ。
雪が硬くて急斜面なので、面白いように斜滑降が決まる。そうか、斜滑降は急斜面の方がやりやすいんだな、なんて新たな発見をしつつ、安全第一に慎重に滑り降りる。登りで恐怖した標高差500mの超急斜面も、ザリザリ斜滑降で削りながらゆっくり下りてもあっという間。太腿はパンパンになって疲れないわけではないけれど、楽に早く楽しく下りれるのは間違いない。スキーって楽しい。
09:00 急斜面を下りたところが渡渉点。谷割れしていないので滑って通過し、宮谷林道出合までの谷筋トラバースエリアに滑り込む。谷筋トラバースエリアは気持ちのよい樹林帯。行きは真っ暗だったので分からなかったけれど、こんなところを歩いていたのか。
ほぼ平らに見えるが微妙に斜度が付いている。早朝でまだ雪が締まっているので、僅かな斜度でもスキーが面白いように滑ってくれる。これが午後の緩んだ雪だったら果たして滑れたかどうか。10分くらいであっという間に宮谷林道出合まで。これは楽ちんだ。ここでもスキーの威力を思い知った。
ここで今日初めての後続者とスライドした。ワカンを使用されていたが、結構な沈み込み。これから緩んでゆく雪が大変かも...。この山、スキー最強かもしれない。
宮谷林道出合からは、藪っぽい樹林帯を滑り降りてゆく、俗にいう”修行”エリアか。ここがスキーで下りれるかが、当初からの懸念点。そこそこの斜度の狭いスペースをスキーで下りなければならず、これがスキーにとってはなかなか厄介だ。しかしここもまだ雪が緩んでなかったので、なんとか下りることができた。これがもし雪が緩んでいたら、もっと大変だっただろう。そんな修行系の滑りも、夢中になれて楽しい。最後の杉林区間が一番大変だったかも。
09:50 山頂から2時間半で、ザクの待つ登山口へ帰還。ザクを見つけて一安心。
スキーは歩くよりスピードが出る分だけ運動エネルギーが高く、何かに衝突した際にはその分怪我に繋がりやすい。絶対にけがをしないように慎重に下りてきたのでこれだけ時間がかかったが、普通にバックカントリースキーができる人であればもっと早く下りてこれるのは間違いない。しかし、標高差1,400mの急な山をスキーで登って下りてこれただけで、今の自分は上出来だ。
チャリにスキーに撮影機材に、持てるものをすべてを投入した総力戦となった。日帰り装備としては最強・最重量装備だ。w 大変だったけれど得たものも大きく、記憶に残る山旅となった。
白川郷 観光サイクリング(10:10-11:00)
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白川郷/猿ケ馬場山アプローチサイクリング ~山アプローチに観光に自転車大活躍~
積雪期しか登れない日本三百名山の一つ、猿ケ馬場山。 ”積雪期限定”という制約のみならず、白川郷の駐車場問題という制約も加わって、これがなかなか難易度が高い。 そんな猿ケ馬場山も、自転車でアプローチすれ ...
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帰りはザク(電動アシスト自転車のこと)を使って、インバウンドで賑わう白川郷を観光がてらサイクリング。
早く下山した午後は、大日ヶ岳に登っての白山の夕焼け撮影のダブルヘッター計画だったが、薄雲が広がってきたため中止。猿ケ馬場山一山のみで北陸遠征は終了した。
チャリを使っての猿ケ馬場山スキー登山と白川郷サイクリング、この組み合わせが最高に楽しいかもしれない。