6年前の2019年3月に、初めて冬季にチャレンジした白馬岳。撮影に登頂にほぼ勝利を手中に収めたと油断していたところ、55リットルの大型ザックを爆風に飛ばされ強制終了。遭難こそしなかったものの大損害の大敗を喫した。
雪山テント泊の厳しい山行は、年齢を重ねるたびに厳しくなりいずれはできなくなるだろう。毎年冬になって思うのは、「いつかは雪の白馬岳へ...」という果たせなかった白馬岳への想い。
今年最後のラストパウダーとなるであろう、晴天が約束された日”TheDay”が訪れた。
長年登頂できずにいた笈ヶ岳へ準備していたところ、白馬の雪崩情報を調べてみると「LV2(要警戒)」で大丈夫そう。これは白馬じゃね?
急遽行き先を白馬岳に変更。笈ヶ岳の日帰り装備から白馬岳のテント泊セットへ装備を整える。6年前の雪辱を果たすときが来た。
登山ルート
〔距離〕16km/〔累積標高〕1,530m
〔1日目_山行〕5時間40分/〔休憩〕2時間00分〔合計〕7時間20分
〔2日目_山行〕6時間30分/〔休憩〕3時間30分〔合計〕10時間00分
山行記録 2025年3月9-10日
1日目_登り①(栂池自然園駅 09:50 ⇒ 12:20 白馬乗鞍岳 ⇒ 12:30 白馬大池)
EOS R5+RF14-35mm F4L IS USM 24mm f11 1/320sec ISO100 PLフィルター
前夜に無料の栂池第二駐車場に到着。いつもの朝焼け撮影ナイトハイクではないので、数時間仮眠することができた。常時ほぼ徹夜登山となってしまうので、登山前にこんなに寝れたのは久しぶりだ。
08:00 準備を整え終わり、栂池のゴンドラ乗り場へ向かう。第二駐車場からゴンドラ乗り場までが500m。しかも坂道。この距離が結構かったるい。
雪山登山も何度も繰り返すうちに行動と装備の精度は高まる。今回2回目ということもあり、白馬雪辱の準備は万全だ。
出発間際に装備で迷ったのが撮影機材。積雪期の白馬登山は山小屋が利用できないテント泊山行となり、普段持たないシャベルなどをもち最重量級の装備となる。少しでもコンパクトに軽くしたい。
迷ったのが、三脚を持つか持たないかと、望遠レンズを廉価版で軽量の100-400mmF5.6-8か最高画質だがヘビー級の100-500mm F4.5-7.1Lにするかの2点。
レンズの画質の差は、拡大すれば正直ある。安い100-400mの方は泡立つような解像を見せるときがあり、白馬からの素晴らしい光景はやはり100-500mmの最高画質で撮り切りたい。白馬岳山頂からは、剱岳などより長焦点距離のレンズが活躍するだろう。
両レンズとも十分な手振れ補正機能を有している。最近の優秀な手振れ補正機能をもってすれば、微風であればウィペットを一脚替わりにして超望遠域でもブレずに撮れてしまう(たまに失敗するコマは出るが)。しかし経験から、この時期のアルプスの稜線が風の強さは嫌というほど知っている。三脚の足を短くして押し付けるように固定してもブレれてしまう強風爆風のときもある。
一度は出発したものの、駐車場とゴンドラ乗り場を行ったり来たり。最終的には万全を期して100-500mmに三脚を持っていくことにした。この超望遠レンズと三脚で3kgとは。とても冬山登山の装備ではない。w
時間はあるので、その分焦らずゆっくり登ることにしよう。
ゴンドラ乗り場からスノーシューを持つ登山者はおらず、アウェイ感いっぱい。
09:50 始発からやや遅れて、栂池自然園駅から登山開始。バックカントリーの人たちでいっぱい。最近はスキーで登ることが多くなって、スノーシューを使う機会が前より少なくなった。自分もスキーで登りたいけれど、今回の目的は白馬岳登頂だから。
標高が高く気温が低いからか、雪質は極上のパウダー。登山者にとっては、スノーシューでも蟻地獄のよう。始発より遅れてスタートしたので、トレースはたくさん。ボーダーのスノーシュートレースを拝借させてもらう。
11:00 天狗原まで1時間ほどで到着。白馬乗鞍岳のとてつもなく大きなバーンが現れる。冬に来るのは二度目だけれど圧倒的だ。斜面を登るバックカントリーの人たちが蟻んこのよう。早くも奇声を発しながらスキーヤーが滑り降りてきた。いいな、楽しそうだな。
斜面に取り付くと、スノーシューでもなかなかきつい斜度。スキーでは直登が難しく、スキーヤーはジグを切って登っている。まぁスノーシューもスキーも一長一短ですな。
12:20 ゆっくり登って白馬乗鞍岳着。広がる大雪原の向こうには、これから行く船越ノ頭が大量の雪煙を吐き出している。ここまで白馬岳は雲の中。今日も風が強いのね。6年前の爆風の悪夢が蘇ってくる。相当なトラウマになってるんだな。w
1日目_登り②(白馬大池 12:30 ⇒ 14:30 小蓮華山手前)
EOS R5+RF14-35mm F4L IS USM 18mm f11 1/320sec ISO100 PLフィルター
大雪原の向こうには、真っ白な雪倉岳と朝日岳が顔をのぞかせる。この広さと一面の真っ白な世界、もうこの景色だけでも異世界感がすごい。また白馬にやってきた。テンションだだ上がりだ。しかし前回の失敗があるので、今回は着実に慎重に行こう、と気持ちを落ち着かせる。
心配事と迷い事はまだまだある。今日の宿泊地を白馬大池にするか小蓮華山にするかだ。
白馬山行の目的は、①1日目の夕景と②2日目の朝焼け撮影、そして➂冬季白馬岳登頂の3つ。
夕景撮影のポイントは、小蓮華山と白馬岳山頂の2ヵ所。そのため小蓮華山まで登らないと夕景撮影は出来ないことになる。
テント泊という観点からすれば、窪地で風の直撃を避けられる白馬大池は安全地帯である一方、小蓮華山は強風吹き荒れる稜線上でリスクは高い。実際前回は白馬大池にテント泊した結果、両日とんでもない爆風だったにもかかわらず、風を避けれて快適に安眠することができた。
しかし快適に安眠するために白馬大池にテントを張ると、夕景撮影のために小蓮華山に登って戻って、また翌日登り返す必要があり(前回のパターン)。これは結構疲れるしムダが多い。一方、白馬大池から小蓮華山への往復を回避して小蓮華山でテント泊すると、夜間から朝方、爆風に晒され続ける恐れがある。北アルプスの爆風は超絶最悪だ。とても寝れたものではない。う~ん、どうするか。
鋭く立ち上がった船越ノ頭からは大量の雪煙が吐き出されている。稜線は強風以上なのは間違いない。よく見ると、白馬大池に寄らずにダイレクトに船越ノ頭に直登しているトレースが1本。ムダがなくていいね!計画段階でも小蓮華山に泊る場合はこのルートを通ろうと考えていた。このトレースを見たら心が決まった。
稜線上で一夜凌げるかは不安だが、このためにスコップにスノーシューにカイロ、最大防寒のシュラフにシュラフカバーを持ってきた。準備は万全だ。何事も経験してみないと上達しない。小蓮華山を宿泊地にしよう。
そうと決まれば船越ノ頭へ一直線。一度鞍部の大池の端まで下りると、トレース1つないスベスベの白馬大池が広がる。大雪原にぽつん木があったり。すごい景色だ。なかなか他の冬山では味わえないスケール感。この壮大な景色の中に自分一人だけ。心に染み入る景色というのだろうか。なんとも言えない幸福感を感じる。
ここからが本番。船越ノ頭へ直登する。
船越ノ頭への直登はなかなかの斜度。スキーでは直登できない斜度だが、スノーシューだと直登できるのがよい。テント泊の重荷にあえぎながら一歩一歩。
今年は雪が多いけれど、雨が降ったのだろうか。シュカブラはあまり見られない。前回はこれでもか!というくらいのシュカブラ祭りだったが。それでもエッジがやや弱めのシュカブラは見れた。
振り返れば雲の上に浮かぶ白馬大池。絶景だね。斜度がきつすぎて鞍部の底が見えていない。
斜度が緩んできたら船越ノ頭はもう少し。
13:40 船越ノ頭到着。白馬大池を巻かずにダイレクトに登り上げる効率のよいルートだった。完全に一人旅かと思いきや、雪煙の向こうに数人の人影が稜線上に現れる。登山者がこんなに多いわけない、と思い近づくと、全員スキーヤーだった。天狗原ではなくここから滑るルートもあるのね。
ここまで標高を上げると素晴らしいパウダー。自分も滑ってみたいが、今日の目的地は白馬岳山頂だから。
1日目_設営(14:30 小蓮華山手前)
EOS R5+RF14-35mm F4L IS USM 35mm f16 1/200sec ISO100 PLフィルター
滑走準備をしていたスキーヤーの先へ進むと、完全な一人旅。たった一人という開放感がすごいけれど一抹の不安感もあり。稜線上の風は強く雲が激しく動き、山々の頂きは見えない。これから天気は回復基調だから、夕方には晴れてくれるでしょう。シュカブラの稜線と雲の向こうに雪倉岳が姿を現し始めてきた。この感じがいい。
稜線はどこも風が強い。少しでも風が防げるテント適地を探しながら進む。ときおり雲の向こうに小蓮華山の偽ピークが見え始めてきた。前回の記憶から、あまり小蓮華山山頂付近でテント適地がなかったような記憶があったので、そろそろ見つけなければならない。
すると小蓮華山山頂から400mあたり手前で、稜線が広く風が遮られてやや吹き溜まりっぽくなっているポイントを発見。よし、ここにテント張ろう。
14:30 テント設営開始。冬山テント泊は何度もあるが、冬期小屋泊りが多く、完全な野営は、白馬岳、五竜岳、聖岳の3回しかない。今回は今までで一番リスキーな場所でのテント泊だ。就寝時に無風だったのでブロックで風よけしなかったら、夜間に荒れまくって寝れなかった等過去の失敗がある。今回は前回までの失敗を踏まえ、気合を入れて安全確実なねぐらを設営しよう。
要は深く掘って周囲に高い風よけを作って、テントが風の直撃を受けないようにすればいいだよね。早速雪面を切り取り始める。雪は柔らかく掘りやすい。
穴掘り作業していくとだんだん要領がつかめてきた。シャベルで掘れるけど、スノーソーで切り取った方が雪が崩れず綺麗な直方体になるため、ブロックを隙間なく安定して積み上げられる。シャベルは最低限、スノーソーも必需品だった。持ってきてよかった。そしてこのブロックの切り出し作業、なかなか楽しい。
30分くらいで北と西側2面の風よけブロックの設置が完了した。初めてにしてはなかなかじゃないか。それらしくなって、結構ご満悦。気づくと今日初めて白馬岳と杓子岳が雲から現れるところだった。雪山って楽しいね!!
掘った穴の中にいざテントを設営してみると、意外と風でバタつく。風が巻いてくるのだろうか。夜間寝れないあの最悪のテント泊だけは避けたいので、徹底して全方向ブロックで防御することにした。全方位さらに高くブロックを積むとなると、これがまた大変。ブロックを切り出す量も半端ない。そしてブロックもそこそこ重い。
16:30 結局2時間くらいかかって、風よけブロックとテントの設営完了。すでに日差しが傾き始めていた。テント設営で2時間もかけてしまうと、この間に白馬岳山頂まで届いたんじゃね?とか思えてきた。
白馬岳山頂からの夕景は間違いなく素晴らしいので、山頂テント泊もありかな、と考えていた。しかし、爆風、低温、テント適地が分からない、ということから、ご安全に小蓮華山にしたのだが、山頂夕景撮影の可能性が見えて、少し心がざわついた。
天気予報通り、西の空から晴れ渡ってきた。よっし、今回の1つ目の目的である夕景撮影はもらった。第一の勝利を確信しながら小蓮華山に向かう。
稜線の風は強烈なうえ低温。稜線からは雪煙が吐き出され、白馬岳山頂には笠雲ができたり消えたり。山頂は強烈だ。欲張って山頂まで行かず、小蓮華山泊まりにしておいてよかった(と思おう)。
1日目_夕景撮影(小蓮華山)
EOS R5+RF100-500mm F4.5-7.1L IS USM 223mm f11 1/80sec ISO100 PLフィルター
17:00 小蓮華山着。振り返れば今まで登ってきた稜線と雲から現れ始める東の頚城山塊の山々。
夕景撮影のメインは、夕日に染まる雪原越しの白馬岳や杓子岳。頚城山塊などは遠すぎて米粒くらいにしか見えないが、そこは超望遠レンズ100-500mmがあると話は違ってくる。この絶好の機会、撮れるものは余すところなく撮りきるのだ。
強風の中でのレンズ交換は至難の業だが、機材を風に持っていかれないよう慎重に。まずは超望遠で遠くの山々を切り取っていく。
稜線の向こうに雲から顔を出すカッコイイ雪山が2つ。雪かぶって高山ぽくてすごくいいんだけれど、残念ながら山名が分からない...。外輪山を従えた妙高山は分かる。
日本海からすぐのところに壁のように立ち上がる山は何だろなー。背後の街並みの煙突までくっきり。高妻山はようやく雲から出てきたところ。尖った鋭鋒が針のように突き出る頚城山塊の山々も分からない。
これはもう山座同定アプリを入れなければ、と毎回言ってる。w
反対側は、杓子岳と白馬鑓ヶ岳。2つの山の間を流れる雲が焼ける様がよい。
EOS R5+RF14-35mm F4L IS USM 20mm f11 1/40sec ISO100 PLフィルター
レンズを超望遠レンズから超広角ズーム14-35mmに戻して、メインの白馬岳の撮影へ。小蓮華山山頂の手前の雪面がピンクに染まり、白馬岳から杓子岳へ稜線が連なる絵が素晴らしい。小蓮華山は絶好の夕景撮影スポットだと改めて思う。
今回は前回の6年前より雪が多いのがいい感じだ。山頂からの景色はもっと良いのだろうか。白馬岳山頂からの杓子岳と白馬鑓ヶ岳が染まる夕景を撮ってみたい。
小蓮華山で目に付くのは山頂に刺さる鉄剣。鉄剣とシルエットになった雪倉岳が美しい。雪山と海と夕日、素晴らしい組み合わせだ。
最後はもう1回超望遠レンズに交換して夕日を撮影。朝日を見るのと夕日を見るのとでは、侘しさというかなにか感情が違う。今日は良い一日だった。夕日が沈むのを見送って、さぁテントに戻ろう。
爆風といかずともそこそこの強風。そして非常に寒い。温度計を見ると、まさかのマイナス19度だった。厳冬期の冬山でもなかなかマイナス16度を下回ることはないのだけれど。夕景撮影の細かなカメラ操作で、指先がかなり凍てついてしまった。これはもう致し方ない。
テントに戻り、美味しくないアルファ米主体の夕食を胃に詰め込んで、早々に就寝。あれだけ高く周囲にブロックで積み上げたので、風の直撃はあまり受けない。しかしそれでもテントはバタつく。そして今回唯一の忘れ物に気付いた。耳栓を忘れた。うるさくてほとんど眠れない。
テント内の温度を見ると、マイナス18度。今日どれだけ寒いんだよ。冬の2.700mの稜線でのテント泊なんて、やはり甘くはなかった。
装備は万全で、最大防寒のシュラフにシュラフカバー、断熱マット、全身ダウンと、もうこれ以上防寒できないくらいの装備。加えて、以前聖岳で寝ているうちに凍傷になりかけたことがあったので、カイロで熱源を追加。なんとか朝まで耐え凌ぐ。
休む時間はたくさんあり横になっているのだが、テントのバタつきがうるさすぎてほとんど眠れない。夜半過ぎにさらに風が強くなり、断続的にテントに雪が当たり始める。そして気付くとテントの四辺が外から雪で押され、テント内のスペースが侵食されてきているではないか!
一体全体なにごとか?と思って外に出てみると、なんと肝心の風よけブロックがなくなっているよ!!え、なんで?よく見ると壁が倒れたわけではない。風で溶けたのだ。あまり結合が強くない弱めの雪だったからか。そんなことあるのか?経験が浅いので、何とも言えない。
確かなことは、風よけブロックはなくなって、強風直撃かつ飛ばされてくる雪でテントが埋もれつつある状況ということ。唯一装備が貧弱だったのは、冬用テントでなくスリーシーズン用のテント。
あまりの低温でテントのファスナーが凍り付いたのか、ファスナーの嚙み合わせがズレてファスナーが閉められなくなった。テントが閉められないので、強風と雪がテント内に流れ込んでくる。死にはしないけど、ちょっとどうしようか一瞬動転した。5分間の格闘の末、1つのファスナーを無理やり噛ませてテントを閉じることに成功し、事なきを得た。ほんと最低だ。こんな大変でつらい雪山テント泊なんて、極力したくない。
2日目_白馬岳山頂(小蓮華山手前 03:40 ⇒ 05:40 白馬岳山頂 07:00)
EOS R5+RF100-500mm F4.5-7.1L IS USM 343mm f9 1/50sec ISO100 PLフィルター
01:30 起床。起床といっても、テントのバタつきがうるさくて寝れてないので、身を起こすだけ。w
稜線上の風は相変わらず強い。そしてマイナス18度。前回は小蓮華山で朝焼け撮影をしている。また今度も小蓮華山から朝焼け撮影したとしても同じ写真ができるだけ。なんとしても山頂から朝焼け撮影をしたい。山頂まで行かないと剱岳は見えないし。
この暗闇の中、強風の極低温の稜線を歩いて山頂まで辿り着けるだろうか。さらに急斜面もあったはず。
山頂夜明けか小蓮華山夜明けか迷う。しかし強風といっても前回リュックが一瞬で飛ばされるほどの爆風ではない。なら大丈夫だろう。強風なんて毎度のこと。それに耐えるだけの十分な装備と経験も積んできている。なんてことはないいつものことだ、大丈夫だ、行ける。
03:40 雪で押しつぶされそうなテントから脱出するように出発。爆風でテントが飛ばされるより、雪に埋もれて固定されていた方が心は落ち着く。w
爆風ちょい手前の極寒の稜線を進んでゆく。武器はアイゼンではなくライトニングアッセント。ここまで来るとアイゼン派かスノーシュー派か、もう個人の好みのような気がする。自分はスノーシュー派。重量こそ重たくはなるが、沈み込みは少ないうえ、登りでのヒールリフターが強烈にいい。そしてこのような強風下でも接地面が広く、体が振られず安定感がある。足首もクキクキ曲がらなくていい。
白馬岳山頂までのルートは何度も歩いているので、地形は頭の中に入っている。前日の登山者のものだろうか。1~2名分のアイゼンの足跡が薄っすら残る。暗くて三国境付近の二重稜線部分の地形が分かりづらいが、この前日の足跡が心強かった。感謝感謝。
三国境の二重稜線を過ぎた上部と、山頂下の2か所に急斜面がある。この2ヵ所の急斜面が懸念材料。ライトニングアッセントで登れないと、念のため持ってきた軽量アルミアイゼンに換装しなければならない。換装すると時間がかかる上、強風低温下でオーバーグローブを外して細かな換装作業をすると凍傷のリスクが高まる。極力換装したくない。
おそるおそる1つ目の急斜面に取り付く。部分的に氷化している部分があるが、全体的に硬く締まった雪でライトニングアッセントの歯がしっかりと噛む。斜度も”雪壁”と言うほどのものでは全然なく、ヒールリフターを効かせてスノーシューでなんとか登れる程度度。急なところは安全にウィペットのピックを突き刺して、確実に登り切った。
2つ目の山頂下の急斜面も、ライトニングアッセントで十分。2つ目の急斜面の方が、1つ目の急斜面よりも若干緩い。雪面があまり氷化していなかったこともあり、アイゼンの出番はなかった。山頂下の急斜面を超えれば、山頂はもうすぐそこ。
白馬岳の最大のリスクは風(と乗鞍岳・天狗原斜面の雪崩)。北アルプスの北端に位置しているせいか、白馬大池から稜線に上がった船越ノ頭から山頂まで、強風(ときには爆風)に長時間晒され続けることになる。風を防げるところはほぼない。三国境の二重稜線部分で風が防げる、とあるが、コースは二重稜線の北西側を歩くのでコース上ではない(試していない)。
長時間強風に晒されることによる凍傷が恐ろしい。有効なのが地味にカイロ。ダウン+ソフトシェル、さらにハードシェルを重ね着する最大防寒に、カイロを2つ仕込ませる。極低温下で、自身以外に熱源があるというのは、かなり効果がある。写真撮影のときでも、カイロをグローブ内に入れれば、オーバーグローブを外して作業したとしても、手は圧倒的に凍えにくい。
今までの経験から試行錯誤して行きついた最大防寒装備で、マイナス18度の爆風ちょい手前の強風もなんのその。
05:40 最後は早く着きそうだったので牛歩で調整しながら、念願の冬季の白馬岳山頂へ到着。小蓮華山から1時間半。スノーシューとアイゼンの換装がなかったので、強風にもかかわらず夏山のコースタイムより早く到着することができた。
時間に余裕があるので、ゆっくりと準備して撮影開始。まずは日が昇る前に八ヶ岳と富士山。日本海から富士山が見えるなんて。500mmの超望遠で十分な大きさで捉えることができるが、さすがに遠すぎて空気の揺らぎもあり画質はそこそこ。
続いてメインの剱岳。針の山のてっぺんからピンク色に染まっていく。隣の立山は、白馬から見るといつもの台形ではなくやや三角形に見える。
そして後立山連峰の各ピークの重なりの奥には、かなり遠いが槍穂高。焦点距離を450mmまで伸ばせば画角いっぱいに写る。真っ赤に綺麗に染まっている。
東の空を向けば、高妻山の脇から太陽。北側には白馬岳の稜線にやや隠れ気味に雪倉岳。雪倉岳方面まで戻ってられないので、雪倉岳は白馬岳の稜線ごと横着して望遠で切り取って済ます。
白馬岳から近い山は、白馬三山の杓子岳と白馬鑓ヶ岳、そして反対側の雪倉岳と西側の衛星峰的な旭岳くらい。他の剱岳やその奥の北アルプスの山々はかなり遠く、撮影は望遠レンズが主となる。
出発時に迷っていたが、廉価版の100-400mmではなく100-500mmを担ぎ上げて大正解だった。正面の剱岳であればぎりぎり400mmで届くが、その先の立山や槍穂高は400mmでは届かない。そしてなにより、この素晴らしい光景を現時点での最高画質の機材で撮れている安心感がいい。「ああ、あのときもっといいレンズで撮っておけばよかった...」という後悔がない。
この超望遠での撮影を支えるのが三脚。明け方の山頂は、思った通りの爆風ちょい手前の強風。さすがに最近の超強力な手振れ補正機能といえども、薄明りのスローシャッターで400~500mmの超望遠域を手撮りでブラさず撮ることはできない。風がなく無風に近い場合は可能だが(先週の猿ヶ馬場山)、そんな無風状態は滅多にない。やはり三脚は必須だった。こちらも持ってきてよかった。重たかったけど。w
そうこうしているうちに、剱岳の穂先から朝焼け部分が下りてくる。真っ白な剱岳がピンク色に照らされて、針のような稜線に立体的な陰影がつく。いいね!すばらしいね。これが撮りたかったんだ。
意外だったのは、白馬岳からの剱岳は南西に位置することになり、朝日がベタ光線ではなく斜光線になるということ。爺ヶ岳から剱岳を狙った、真正面でベタ光線で陰影がないのと違う。そしてこの角度からだと剱岳が尖って見えて素晴らしいじゃないか。
剱岳の朝焼けを狙うのは、(超望遠レンズが必要だけど)白馬岳がベストなのではないか、と妙な確信を得た。w
EOS R5+RF14-35mm F4L IS USM 17mm f16 1/10sec ISO100 PLフィルター
朝焼けの剱岳と並んで撮りたかった絵が、こちらも定番ながら杓子岳と白馬鑓ヶ岳を広く取り入れ、奥に剱岳を配するカット。手前の白馬岳と杓子岳の稜線がピンクに染まって美しい。夏の季節には何度もこのカットは撮ったけれど、真っ白な冬の写真を撮りたかった。今年は雪が多く黒く岩が露出している部分も最小限。狙い通りの絵が撮れた。
もう一歩足を踏み出すと崖だからとっても危ないぞ。w
目的の2カットを手中に収めたので、あとは時間の許す限り北アルプスの山々を超望遠で切り取り放題。少し引いて160mmの焦点距離だと、剱岳から別山~立山まで入れることができる。160mmだとやはり通常の標準ズーム域では届かない。ちょうど光が下りてきていい感じに。250mm付近で北方稜線を捉える。ギザギザの連なりがなまめかしい。
さらに340mm付近まで伸ばすと、ギザギザの剱岳の尾根と別山。この角度から見ると別山もなかなかいい山ではないか。同じく340mm付近で立山を捉える。立山も剱岳と同じく陰影が見事につき、素晴らしいの一言。
後立山連峰のピークの重なり方がとっても密だ。白馬鑓ヶ岳の奥に五竜岳と鹿島槍ヶ岳が重なる。さらにその奥にも燕岳~大天井岳~常念岳と並ぶ。
遅れて日が当たり始めた西側の毛勝三山。その奥に恐ろし気に聳え立つのは、大笠山と当初行く予定だった笈ヶ岳か。笈ヶ岳に登っていても素晴らしい朝を迎えられたと思うが、優先順位的にやはり今日は白馬岳だった。
その隣は、北アルプスからよく見える白山連峰。先々週に行った猿ヶ馬場山も見えているはず。しかしのっぺりしていてどこだか分からない。w
さらに遅れて日が当たり始めたのは、正面の旭岳。空には影白馬岳が写っている。
北アルプスの最深部を見やれば、特徴的な双耳峰の水晶岳。500mmの望遠端いっぱいでようやく捉えることができた。厳冬期の水晶岳を見れるなんて。自分が冬季の水晶岳に最も近づける限界か。その奥には真っ赤に染まる、お手軽でいつもお世話になっている乗鞍岳。
ここで朝焼けタイム終了。超望遠で余すところなく撮り切ることができた。撮影でオーバーグローブは外さなければならず、右手の指先がジンジン痛む。致し方なし。カイロを手に仕込んでいてこうなので、カイロがなかったら軽く凍傷ものだっただろう。
2日目_下り①(白馬岳山頂 07:00 ⇒ 08:40 小蓮華山)
EOS R5+RF100-500mm F4.5-7.1L IS USM 100mm f11 1/60sec ISO100 PLフィルター
07:00 朝焼けを撮り尽くして、日が白くなれば下山のとき。今回の目的はパーフェクトに達成した。喜びと充実感でいっぱい。さぁ帰ろう。
広角ズームにレンズ交換して帰路につく。今回は標準ズーム24-70mmではなく広角ズームの14-35mmを持ってきたのは、シュカブラを広く取り入れての広角撮影と軽量化のため。大口径の標準ズームは重すぎて14-35mmの軽さが有難い。
最後にふと剱岳を見やれば、さらに日が下りてきていい感じに。これもいいね!
白馬山荘と白馬岳頂上宿舎は雪に埋もれながらも一部露出している。あの地形であれば風は避けられるかも。しかし1日目でテント泊セットを持って頂上までは、なかなか届かないかも。雪と天候次第か。いまだに撮れていない白馬岳山頂からの夕景に思いを馳せる。さよなら白馬。また冬季に訪れることはあるだろうか。
白馬岳山頂に戻れば、新田次郎の『強力伝』で有名な風景指示盤が立派なエビの尻尾を従えている。すぐ先は崖の上に発達した雪庇。爆風時は危ないかも。そして今いるお前の足元も大丈夫か?w
最後に北アルプスに風景指示盤を入れて。こちら側から見ても、雪庇の発達がすごい。
日が差し始めれば、強風低温でも暖かい。行く手にはなだらかに真っ白い雪倉岳へ続く稜線。スキーで登って滑れたら楽しいんだろうな。
今朝の出発点である小蓮華山の稜線と頚城山塊が見えてくる。テント見えないけど、飛ばされてないよね。今朝は頚城山塊の焼山と火打山がくっきり見える。毛勝三山も完全に日が回っていい感じに。
EOS R5+RF14-35mm F4L IS USM 16mm f11 1/200sec ISO100 PLフィルター
すべてを成し遂げて後は安全確実に帰るだけ。残るわずかな心配事は2ヵ所の急斜面の下降だ。アイゼンを持参しているので、スノーシューで下りれなければ換装するだけだがメンドクサイ。ライトニングアッセントで、景色を楽しみながらガシガシ軽快に下りてゆく。
まず1つ目の山頂下の急斜面に取り掛かる。雪は固く締まりライトニングアッセントの歯がガッチリと噛む。そしてウィペットの鋭く長い石突が雪面に深く突き刺さる。何事もなく安全確実にライトニングアッセントで下りられた。早い早い。
途中綺麗なシュカブラの風紋を楽しみながら。眼前には堂々たる小蓮華山と奥には頚城山塊。行きは暗闇でよく分からなかったが、三国境付近の二重山稜の様子がよく分かる。僅かな岩陰で風が防げるのだろうか。そこ以外は風が直撃しそうだが。ここまでテントを担ぎ上げるのも大変。やはり小蓮華山付近がバランスが良いような気がする。
三国境上部の2つ目の急斜面へ。こちらの急斜面は先の山頂下の急斜面より若干傾斜が急となる。ここも雪質は安定し、ライトニングアッセントの歯が十分噛むが、傾斜がやや急。一部急なところは念のため、ウィペットのピックを刺しながらライトニングアッセントでクライムダウン。こちらも安全確実に下りられた。
ウィペットのピック部分は羽のように広がっていて、しっかり雪面に刺されば保持力は高い。それが2本あるものだから落ちようがない。ライトニングアッセントにウィペットの組み合わせ、これ最強かもしれない。アイゼンが必須となる険しい雪山以外、近年ほとんどこの組み合わせで、実はシーズン通してアイゼンの出番は少ない。
急斜面の基部まで下りてきて一安心。見上げると、まぁそんな大した斜度ではないよね。
急斜面を下りれば、迎えてくれる雪倉岳への白い稜線と大雪原。あとは小蓮華山を登り返して、長~い稜線のアップダウンをこなして下山するだけ。そうこの尾根、大した斜度ではないけれどアップダウンがある。もう少しアップダウンが少なければスキーで来やすいんだろうな。
振り返れば一筋のトレースと白馬岳。最高だった、白馬岳。
08:40 小蓮華山着。山頂から1時間40分。あれ、なぜか登りより時間かかってないか?登りはある程度急いでいたのと、下りは写真撮りながらだったからか。
小蓮華山からは、斜光線で立体的に照らし出される白馬三山が素晴らしい。小蓮華山からの山岳展望は超一級だと思う。白馬三山の各ピークが綺麗に尖がって見え、そこから長く延びる稜線が美しいのだ。
白馬岳山頂からの朝焼けも素晴らしいが、小蓮華山からの朝焼けも負けず劣らず良い。小蓮華山からの朝焼けは前回リュックを飛ばされる前に撮れているので、これで白馬岳の朝焼け撮影はコンプリートだ。
2日目_宿泊地撤収(09:00 ⇒11:10)
EOS R5+RF14-35mm F4L IS USM 25mm f11 1/400sec ISO100 PLフィルター
小蓮華山山頂からは最後に鉄剣と雪倉岳を撮る。雪倉岳はどちらかと言えば、逆光となる夕景の方がよいかも。小蓮華山から400mくらい下りてテント設営地へ。次なるピークの船越ノ頭と白馬大池が見えてきた。
09:00 テント設営地着。テントを一目確認して、なんてこった。昨日2時間かけて築き上げた防風壁が跡形もなくなってるではないか。すべて風で溶けてしまったとしか言いようがない。そしてテントは半分雪に埋没。テント設営時とのビフォーアフターが違いすぎて笑えてくる。
いやぁ、これはベストは尽くしたし、致し方ないんだろうな。夜間は強風だったが爆風と言うわけでもなく。もっと気象条件が厳しかったら、もっと大変だったに違いない。稜線でのテント泊、やはり易しいものではなかった。
先の小蓮華山山頂からの展望も素晴らしいが、実は小蓮華山山頂ではなく小蓮華山の少し下の方が、白馬三山が綺麗に見えると思う。手前の雪稜と各ピークからの尾根尾根が一直線に伸びとてもバランスが良くて自分は好きだ。
EOS R5+RF100-500mm F4.5-7.1L IS USM 500mm f9 1/320sec ISO100 PLフィルター

今日は既に5時間半の間ずっと強風に晒され続けており、エネルギーの消耗が激しい。早く帰りたいのだが、食わずには行動できない。雪からお湯を作りアルファ米を戻す。
残りの下山分だけ持つ食事を摂ったら、テント撤収前に頚城山塊と後立山連峰の超望遠撮影。
米粒のような頚城山塊の各ピークを超望遠で切り取ってゆく。ひと際目につくのは、真っ白な焼山と火打山。望遠端いっぱいの500mmで狙えば、焼山もすぐ近くで見ているよう。スキーで滑ってみたい。お隣の火打山は白さ100%。妙高はそこまで白くなく、少し黒々。拡大してみると、外輪山に無数のシュプールが描かれていた。
荒々しい高妻山の奥には、白い峰々が見える。なんの山だろう。
後立山方面を見れば、先の白馬岳山頂展望と少し位置関係がズレ、唐松岳の稜線、五竜岳、鹿島槍ヶ岳が綺麗に重なる。拡大すると、五竜岳へアタックしている1名を確認。ルートがいまいち分からず、このトラバースは怖い。冬季の五竜岳は過去爆風で敗退しているので、いずれ行って見たいと思っているが実現していない。次は五竜岳か。
少し右にズラせば、槍穂高が重なる。唐松岳手前の不帰キレットのごちゃごちゃの重なりがすごい。もちろん人影はなし。立山の奥には薬師岳。スベスベの杓子岳と白馬鑓ヶ岳山頂。冬に行って見たいなー。
2日目_下り②(小蓮華山手前 11:10 ⇒ 13:40 栂池自然園)
EOS R5+RF14-35mm F4L IS USM 30mm f11 1/400sec ISO100 PLフィルター
11:10 埋もれたテントを掘り出して撤収。稜線上でのテント生活は大変だったが、撮影と2日間の行程のバランスを考えると、小蓮華山でのテント泊がよかったと思える。
後はもう若干消化試合。次に登り返すは船越ノ頭。大した標高差でもないが、ここまで下りてくると春の日差しと相まって暑い。振り返ればバランスの良い小蓮華山の杓子岳と白馬鑓ヶ岳。春の陽気になって、昨日より雪が解け岩が露出して来たか。今回がラストパウダーだったかもしれない。
11:30 船越ノ頭着。ちょうど標識の「船越ノ頭」の文字部分が雪から出ている。今日もスキーヤーがちらほらと登ってくる。
船越ノ頭からは白馬大池へ向かって急斜面をダイブ。広大な白馬大池には2つのトレースがあり。テント泊の重荷を背負って、急斜面を踏ん張るのが辛い。船越ノ頭からは乗鞍岳への登り返しがあるものの、スキーで下山したい。乗鞍岳への登り返しが暑すぎて、たまらず脱皮する。
12:20 緩く登り返して白馬乗鞍岳着。大雪原の向こうには、近づいてきた頚城山塊。振り返れば綺麗なピラミッドピークの船越ノ頭。白馬大池越しの真っ白な雪倉岳と朝日岳。もうこの景色ともここでお別れか。名残惜しい。
天狗原への大斜面を、頚城山塊を正面に急降下。一歩一歩踏ん張るのが辛く滑って下りたい。バックカントリースキーを始めてからというもの、スキーで登れる山は自分の実力の範囲内で積極的にスキーを使ってきた。スキーで滑れる斜面を歩いて下りるなんてもはや拷問に近い。w
しかもこんなに素晴らしい一大バーンを歩いて下りるなんて。無数に刻まれたシュプールが恨めしい。お昼の時間になっても、不思議と雪は死んでおらずパウダー。天狗原まで下り切って振り返れば、広大な自然のゲレンデ。いずれここもいずれ滑ってみたい。
天狗原からは、後立山連峰を眺めながら標高を下げる。ロープウェイ駅が遅々として近づいてこないのがもどかしい。
13:40 栂池パノラマウェイ自然駅着。20分間隔と思っていたら、今日平日は30分間隔だった。
下山の途中、今日歩いてきた白馬岳までの稜線を見ると誇らしい。
6年前に大敗を喫してずっと心残りだった積雪期の白馬岳。今回はすべてパーフェクトに目的を達成することができ、雪山山行の心のつかえがとれたかな。
異世界のような美しい景色を見れ、こんな素晴らしいところを歩けたことに何とも言えない幸福感を感じた。今後は昔の山行を回想しながら白馬エリアをBCスキーするのも楽しいかもしれない。