ロードバイクのインプレッションは、重量以外感覚的なものが多く、人によって異なる主観的なものである。「硬い」「柔らかい」と表現しても、あくまでその人自身の過去に乗ったバイクに基づく感想に過ぎない。
そのため、比較対象を明確にしたレビューの方が主観的な感覚を客観化でき、具体的な基準をもってバイクの特性を理解するうえで有効である。
ピナレロF5(自分用)とELVES VANYAR PRO(嫁さん用)と、ロードバイクを2台所有することになった。せっかくなので、この2台のロードバイクを乗り比べて感じたインプレッションをまとめてみたいと思う。
比較インプレッション
結論
結論から言えば、総じてピナレロF5の圧勝 だった。
VANYAR PRO DISC | PINARELLO F5 | |
① 見た目 | 〇:良い | ◎:非常に良い |
② 重量 | ◎:軽い | △:やや重い |
➂ 剛性 | △:柔らかい | ◎:硬い |
④ 振動吸収性(快適性) | ◎:優れる | 〇:普通 |
⑤ 空力性能 | △:普通 | ◎:非常に良い |
各検討要素別にみれば、②重量と④振動吸収性についてはVANYAR PROが優れ、①見た目、➂剛性、⑤空力の面でピナレロF5が優れる。
しかし完成車販売(F5)とフレーム販売(VANYAR PRO)で単純比較はできないものの、両者の価格は大きく違う。
● ピナレロF5(105Di2):836,000円 → 2025/8/1価格改定後 668,800円
● VANYAR PRO+エアロハンドル:165,000円+16,500円=181,500円
価格とVANYAR PROのオリジナルペイントという大きな特典を考慮すると、コストパフォーマンスではVANYAR PROが優れていると言えるかもしれない。ちょっとしたカーボンホイールよりも安く、フレームとハンドルセットが手に入る価格なのだから。
①見た目
見た目は完全な個人の主観になるが、ピナレロF5の圧勝。なにしろ、見た目の良さと色だけで買ったのだから。
パッと見ほとんどDOGMA。DOGMAを所有している所有感すら味わえちゃう。出先で「それドグマですか?」と聞かれることもあるが、「いえ、3rdグレードです。」と、なんとも微妙な会話が生じたりする(笑)。
VANYAR PROも伝統的なホリゾンタルフレームの形状を残しつつ、ダウンチューブは太く、トップチューブは極太だけど横から見たときは補足と、メリハリの効いた今どきの形状で、これはこれで魅力的である。
気になる点があるとすれば、コラムスペーサーが丸型になっていて、エアロを意識した形状になっていないところが個人的には残念なところ。
②重量
重量については、VANYAR PROの方が軽い。VANYAR PROに乗ってすぐに「軽っ!」と感じるほどの軽さである。軽量なコンポーネントを組み合わせれば、リーズナブルに軽量なマシンを組むことができる。
フレーム販売のみでバラ完が前提のため、ピナレロF5から載せ替えた余りの105コンポで組み、カーボンホイールにしただけで8kgを切ることができた。
一方、ピナレロF5は剛性や空力性能を考慮したエアロ形状で、使用されているカーボンも東レ製のT700というミドルグレードのため、決して軽くはない。
完成車販売で最初から105がアッセンブルされていることもあり、納車時のペダルなし重量は8.9kg。コンポーネントを入れ替えるなど総取り替えしたとしても、7kg後半が限界ではないかと思う。
ヒルクライムマシンとして使うには、もう少し軽さが欲しいところだ。
➂剛性
剛性については、ピナレロF5の圧勝と言える。
VANYAR PROのレビューで「剛性が高い」と書かれているものを見かけるが、私自身の感覚では、ピナレロF5と比べると柔らかく感じた。VANYAR PROは東レ製のT800およびT1000、ピナレロF5はT700を使用しており、VANYAR PROの方が高剛性のカーボンを使っているにも関わらず、この差は顕著である。
剛性の違いは、BB周りの肉厚さを比較してみると一目瞭然で、ピナレロF5の方が圧倒的に分厚い形状をしている。
この剛性の違いは、ペダルにかけた力がロスなく推進力に変わる”かかりの良さ”という感覚となって現れる。ピナレロF5ではそれを強く感じるが、VANYAR PROではそこまでの推進力の良さは感じられない。
④振動吸収性
剛性と振動吸収性は相反する要素である。そのため、剛性では劣るVANYAR PROのほうが、振動吸収性では優れていると言える。
VANYAR PROに乗ると、路面からの細かな振動や衝撃を吸収してくれるのが分かり、「柔らかい」と感る。これは、体への優しさにつながる。
ピナレロF5も東レ製のT700というミドルグレードのカーボンを採用しているため、カーボン自体が特別硬いわけではない。しかし、BB周りの肉厚さからくる剛性の高さゆえか、振動吸収性はVANYAR PROに軍配が上がる。
ノーマル状態のF5ではロングライドはやや厳しいかもしれない。快適性を高めるためには、タイヤやホイール、ハンドルなどのパーツをある程度カスタムする必要があるだろう。
ちなみに2年間乗り込んだ結果、自分のピナレロF5は、撮影を目的としたゆるポタとロングライドの用途に合わせて、快適性に全振りしたマシンに仕上がった。
⑤空力性能
エアロ形状をしている見た目そのままに、空力性能はピナレロF5の圧勝。
時速30km以上からは、空気を切り裂いて進んでいくような感覚があり、そこからさらに速度が伸びていく。下りで時速50km前後出ているときに、膝を外側に少し出してみると、強い空気の抵抗をまともに受ける。それだけ、バイク全体で効率的に空気の壁を切り裂いて走っているということなのでしょう。
VANYAR PROでは、ピナレロほどの空力的な良さは感じられない。
⑥オリジナルペイント
VANYAR PROには、オリジナルペイントができるという大きな特典がある。しかも無料でカラーも豊富である。
実際にオリジナルペイントをやってみると、走ること以外でも自分のバイクに愛着が持てるのが素晴らしいと感じる。自分でデザインやカラーをすべて決められるので、楽しくもあり、難しくもあり、それがまた醍醐味だと思う。
用途に応じた使い分け
ヒルクライム(レース)
自分の場合、富士ヒルなどのヒルクライムレースではピナレロF5を使った。
確かにVANYAR PROの方が軽く組み上がるが、ピナレロF5の高い剛性からくる「無駄なく進む」感覚が、ヒルクライムレースの場面でしっくりきた。
ロングライド

EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 42mm f16 1/40sec ISO100 PLフィルター
やはりピナレロF5は、剛性の高さからくる無駄なく進む感覚が、何度もゼロ発進するロングライドで気持ちいい。また空力性能に優れているので、ある一定以上の速度で巡航して距離を稼ぐ場合も有利に働く。
一方、VANYAR PROは振動吸収性の良さがロングライドに有利なはずだが、ピナレロF5に比べると進みが悪く感じ、なぜか疲れてしまった。
どちらのモデルもレーシングジオメトリーを採用したコンペティションモデルなので、前傾姿勢はきつめ。ロングライドで使うなら、コラムを極端に短くカットせず、ハンドル位置を高くしておくと良い。
《番外編》想定外の用途に落ち着いたVANYAR PRO
VANYAR PROを購入した当初の目的は、嫁さんと一緒にロードバイクで楽しい思い出を作りたかったことと、ピナレロF5のコンポ載せ替えで余った105Di2を活用したかったことの2点。
しかし、当初のメインの目的だったライドは、半年間の稼働率がたった4回…。不稼働バイクじゃん!
嫁さんは暑さや寒さ、紫外線を浴びるのが苦手なようで、代わりに手軽に汗をかけるスマートトレーナーを、時間のある日は毎日頑張って乗っている。スマートトレーナーには、同じ理由で稼働率が低かったクロスバイクを繋いでいた。
VANYAR PROはスマートトレーナーに繋いでいたクロスバイクと交換して、スマートトレーナー専用バイクになった。
Di2のカーボンバイクをスマートトレーナー用にするのはもったいない使い方かもしれない。しかし、クロスバイクで漕ぐよりもロードバイクで漕ぐ方が、体幹などのトレーニングになるし、気持ち的にもやる気が出るのが大きい。毎日使ってくれているので、これはこれで幸せな使い方になったと感じている。
屋外、屋内を問わず、愛着のあるバイクで毎日漕げるのはとても楽しいこと。いつかまた、2台で外を走れる日が来るはず(笑)。