磐梯吾妻スカイラインヒルクライムレースに参戦した翌日。せっかく東北まで遠征してきたのだから、レースだけで帰るのはもったいない。
というわけで、以前から気になっていた牡鹿半島一周サイクリングへ。
”半島一周サイクリング”と言っても、日本全国半島の数はそれほど多くなく、サイクリングの対象として半島は結構貴重なのだ。
随所で東日本大震災からの復興の歩みを身近に感じることができる、牡鹿半島一周サイクリングを紹介する。
走行ルート
牡鹿半島一周データ
〔獲得標高〕1,300m
〔平均スピード〕18.4km/h
牡鹿半島サイクリングを端的にまとめると以下。
● 震災復興で道は広く走りやすいが、アップダウンが多く、平坦な道はほとんどない
● 見どころは、①道の駅おながわ、②御番所公園展望台からの金華山、➂ホエールタウンおしか、と少な目だがインパクトは大きい
2025年7月7日(04:40-11:30)
EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 28mm f8 1/13sec ISO100 PLフィルター
04:40 石巻からスタート。一昨日の福島までの夜間移動と、昨日の熱帯夜で、2日連続でほとんど眠れていない。
天気予報は晴れだが、湿度が高く蒸し暑い。この暑さの中を80kmも走るなんて。暑くなる前に走り切る計画だ。
牡鹿半島を時計回りで回るため、最初の目的地は女川町。
万石浦という内海のほとりを女川町に向けて走っていく。景色が見たくて堤防の上を走ってみた。万石浦はとても広く、まるで海のようだ。朝日が昇ってきたが、水蒸気が多すぎて景色が霞み、眩しくない。
朝日と万石浦の美しい景色が撮れた。もう少しすっきりと晴れてほしいが、晴れれば暑すぎて走るのが大変になる。夏のライドは本当に難しい。近年の酷暑では、命の危険すら感じる。夏は無理して走らないほうが良いと考えている。
道が古くガタガタの区間もあったが、新しく頑丈そうな浦宿橋を渡れば、万石浦ともお別れだ。
05:20 道の駅おながわに到着。驚くほどおしゃれで、とても綺麗な空間になっている。
東日本大震災からの復興まちづくりにおいて、「海を眺めてくらすまち」というコンセプトでデザインされたそうだ。奥に見える三角屋根が女川駅。
朝早く、誰もいない女川駅前のレンガみちを歩く。
女川駅まで来てみると、その大きさに圧倒される。自転車と比べるとよく分かる。駅舎の2階には温泉施設「女川温泉ゆぽっぽ」が併設されている。開いているなら入ってみたかった。
まだスタートしたばかりで、先は長い。女川駅前のレンガみちを引き返す。道の駅おながわの中には巨大なスクリューがあった。記念にピナレロF5と記念撮影。このスクリューは震災遺構として、復興のシンボルの一つとして展示されている。
レンガみちを戻ると、すぐに女川港。「海を眺めてくらすまち」というコンセプト通り、防潮堤は何もなく、すぐに海が見える。二度と津波の被害に遭わなければよいと願うばかりである。
復興した女川港と漁船。晴れの予報だったが、あっという間に曇ってしまった。
牡鹿半島の中心を縦断するのが県道220号線、牡鹿コバルトラインだ。”半島一周サイクリング”なので、できる限り海沿いの道を走りたい。女川町からはコバルトラインを使わず、海沿いの県道41号線を南下することにした。
女川港から県道41号線へ合流するための立体交差が大規模で、今日一発目の軽いヒルクライムをこなす。
EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 30mm f11 1/50sec ISO100 PLフィルター
海沿いの県道41号女川牡鹿線は、災害復興した道なのか、広くて綺麗で走りやすい。半島なので平坦な道は少ないが、軽いアップダウンを繰り返しながら高速巡航できる。
GoogleMAPに「女川いのちの石碑(横浦)」とあったので、県道41号線から離れて行ってみる。それなりのヒルクライムを経て高台に出ると、石碑があった。
「2011・3・11 ~ここは、津波が到達した地点なので、絶対に移動させないでください。もし、大きな地震が来たら、この石碑よりも上へ逃げてください。~」と刻まれている。ヒルクライムをしてやっと辿り着いた高台が津波到達地点だなんて、にわかに信じがたい。石碑の近くは、移転してきた20件ほどの家が建つ横浦集落。
津波被害の大きさを感じ、複雑な気持ちになりながら走っていくと、海へと下りていく。五部浦湾だ。小さな砂浜があり水も綺麗。もう少しすっきりと晴れていれば、真っ青な海だったに違いない。道は綺麗で走りやすく、交通量はほとんどない。少し寂しいくらいだ。
途中、何かの生け簀があった。何を育てているのだろう?
五部浦湾には、牡蠣の養殖だろうか、たくさんの養殖筏が海に浮いている。漁船も多い。
五部浦湾を過ぎると海から離れ、女川原子力発電所の案内が出てくる。海岸線を走りたかったのだが、原子力発電所への道となるため進入禁止。県道41号線を通って、ヒルクライムに入る。交通量が少ない割にやたらバスが通るな、と思っていたが、女川原発の従業員を運ぶバスだったらしい。
結局原発には近づけず。せっかくここまで来たのだから、一目見たかったんだけど。
EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 34mm f11 1/80sec ISO100 PLフィルター
まさか原発を回避するために激しいヒルクライムになるとは。
06:40 原発の背後の峠を登り終えると、レンガ造りの東北電力女川原子力PRセンターが建つ。当然まだ営業時間外。残念、原発の雰囲気を少しでも感じてみたかったのだが。
女川原子力PRセンターからは、峠道のダウンヒル。そして鮫浦湾沿いに長大なストレート区間が続く。こんなに長いストレートはなかなか見ないかもしれない。しかし、移動とレースの疲労、寝不足でまったく体力が回復しておらず、かっ飛ばすことはできなかった。
道沿いには牡蠣工場だろうか、牡蠣の殻がうず高く積まれている。あちこちに牡蠣の殻があり、独特の匂いがする。こんな牡蠣を味わいながら走るサイクリングは初めてかもしれない。
鮫浦湾には頑丈な鮫浦湾防波堤が築かれている。部分的にまだ工事が続いているのか、重機が稼働していた。
鮫浦湾を過ぎると、海沿いの道はなくなるため、県道41号線をたどって半島の中心を走る牡鹿コバルトラインへ向かう。コバルトラインは半島の中心部を走るだけあって、そこに至るまでも当然ヒルクライム。
暑くてヒルクライムはつらいが、曇ってくれて助かった。頭上を通るコバルトラインが見えれば、ヒルクライムは終了。コバルトラインに合流し、南下する。
EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 28mm f16 1/25sec ISO100 PLフィルター
牡鹿コバルトラインは、半島で一番高い中心部を通る、いわばスカイラインだ。
どんな景色が見えるのかと楽しみにしていたが、基本的に眺望はほとんどない。ひたすら森の中をアップダウンを繰り返す。それほど激坂ではないが、さすがスカイライン、平坦なところはほとんどない。良いトレーニングにはなるよ。
数少ない展望の良い場所もあったが、残念ながら霞んでいてすっきりとは見えない。晴れていたら綺麗だっただろうに。
さらにアップダウンを繰り返しながら南下すると、ゲートがあり、南に抜ける道と分岐する交差点に差し掛かる。そばには金華山黄金山神社の一の鳥居があるようだったが、通り過ぎてしまった。
おしか御番所公園へ行きたいため、ここでコバルトライン(左)と別れて南下する。
進んでいくと、一面伐採されたエリアがあり、その脇をヒルクライム。今日一番の激坂だった。激坂を登り終えると、伐採された上部に出て展望が広がる。向かいにある大きな山のような島が金華山だ。デカい!
08:30 ほどなく行くと、目的地のおしか御番所公園に到着する。開けた山の上に大きな展望台が立っている。その手前には錆びた吊り橋。誰もいない。
ここまで来るコバルトラインも、交通量はほとんどなかった。走りやすいのだが、孤島に取り残されたような感覚もする。
展望台まで再びヒルクライム。ここだけなんで木がなく開けているのだろう?
展望台からは、金華山がすぐ目の前だ。金華山を初めて見た。
「島」と聞くと、一周走りたくなるのがサイクリストの性だろうか?地図を見ると金華山には、まったくと言っていいほど道がない。多分この先、金華山へは行くことはないだろうな。
金華山を見ていると、ようやく晴れ間が出てきた。急に緑が輝き始める。
ピナレロF5と金華山との記念撮影。今日一番のビュースポットで、日差しが出てくれてよかった。
EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 30mm f16 1/25sec ISO100 PLフィルター
御番所公園展望台からは爽快なダウンヒル。登った分だけ下りがある。今まで人気のなかった山の中を走ってきたが、女川町以来の街、ホエールタウンおしかまで下りていく。
08:50 ホエールタウンおしかに近づくと、いきなり戦艦ヤマトが目に入ってくる。そばにいるクジラの親子が小さく見える。
ホエールタウン牡鹿は、観光物産交流施設「Cottu」、牡鹿半島ビジターセンター、おしかホエールランドの3つの施設が集まった、近代的でおしゃれな施設だ。
夜明け前から走っていて、さすがに疲れた。日が出て猛烈な暑さになってきたので、火照った身体を冷やさせてもらう。ここで休めなかったら、かなり厳しかったかもしれない。
今日2度目の朝ごはんを食べて、活動再開。まずは施設に隣接して嫌でも目立つ捕鯨船「第16利丸」を見学する。とにかく、戦艦ヤマトのようにデカい。
ピナレロF5と一緒に記念撮影しようとしても、大きすぎてフレームに入らない。その大きさに驚くが、この巨大な船をどうやって陸に上げたのかの方が気になったりする。
捕鯨船の隣には、大小のクジラのモニュメント。親子だろうか。ごめんよ、美味しく食べてしまって。
鮎川港に立ち寄ると、こちらにも波の上にクジラくん。3.11東日本大震災のときの津波浸水状況が記されている。この波の塔の中ほどまで水位が来て、8.6m以上の津波を観測したとのこと。恐ろしい。この波の塔は、あの大津波に被害に耐えたのだろうか。
ホエールタウンおしかは、とても良いスポットだった。綺麗な施設と巨大な捕鯨船、そして津波到達地点など、かなり度肝を抜かれるインパクトの大きな観光施設だ。
EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 24mm f11 1/60sec ISO100 PLフィルター
ホエールタウンおしかを出ると、強烈な夏の日差しが照りつける。これはもう、命の危険を感じる灼熱ライドだ。一刻も早くスタート地点の石巻に戻らないと死んでしまうくらい海岸線をすべてなぞって帰ろうかと思ったが、ムリムリ却下。
最短ルートの県道2号線をひたすら北上することにした。これでも「牡鹿半島一周」と言ってもいいだろう。
入り組んだ半島を、海を横に見ながら走っていく。道は災害復旧からか、広くて綺麗で非常に走りやすい。しかし、アップダウンは激しく、平坦な道はあまりないと思ったほうがよい。
人が住む町は、基本的に平坦な土地がある入り江にある。その点在する町に近づくたびに海抜ゼロメートル付近まで強制的に下ろされ、町の間は峠越えになるためヒルクライムになる。この繰り返しだ。
標高差はそれほどないが、伊豆半島の西伊豆エリアと似ている。「半島一周」は、どこもこれに近いと思って間違いないだろう。
道は良いが平坦なところがなく、アップダウンが連続する。そして交通量はほとんどない。ロードバイク乗りにとって、トレーニングにはうってつけと言えるが、灼熱ライドとなると話は別だ。真夏の太陽が照りつけてくれるおかげで、海も青く綺麗に見える。
途中で暑さに負けて、何か所か立ち止まった。
白い輪っか状のモニュメントは、牡鹿希望の輪。牡鹿地区の犠牲者の氏名が刻まれた慰霊碑だった。3月11日午後2時46分に、アーチ上部の切れ目を日光が通るように設計されているとのこと。ご冥福を祈るしかない。サイクリングを楽しんでいるのが、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。
次に目に留まったのは、巨大なコンクリートで築かれた大原漁港の突堤だ。津波にビクともしないような頑強な造り。門を閉めれば、もう海は見えない。海が見えた方が綺麗なのだが、津波は防ぎたい。難しい問題だ。
峠を越えるとダウンヒルで強制的に標高を下げられ、入り江が現れる。見えてきたのは小さな侍浜漁港。下ったらまた登る。
登った先に案内があったので寄ってみると、支倉常長メモリアルパークだった。支倉常長像が立つ見晴らしの良い展望台。支倉常長は、慶長18年(1613年)、伊達政宗の命を受けて木造船でローマへと渡り、ローマ法王に謁見した初めての日本人とのこと。その時代にこの地からローマまで行っただなんて驚きだ。
EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 35mm f16 1/30sec ISO100 PLフィルター
灼熱の中、アップダウンをこなしていくと、再び万石浦が見えてきた。あともう少しだ。
万石浦には、海苔だろうか、牡蠣だろうか、養殖棚がたくさん設置されている。普段見慣れない景色を見るのは楽しい。ちょいちょい止まって写真を撮れるサイクリングは最高だ。写真とロードバイクという二つの趣味が合わさるとより楽しい。
白い橋脚が目立つ万石橋を渡れば石巻市。渡波港で今日最後のピナレロF5との記念撮影。
フルクラムSHARQホイールの、迫力あるうねうねシルエットが好きだ。リム幅25mmのワイドリムからくる快適性は、ロングライドの最強の味方かもしれない。
11:30 最後は堤防の上を走って、牡鹿半島一周ゴール!もう少し到着が遅かったら、熱中症になっていたかもしれない。
金華山を望むパノラマと、ホエールタウンおしかのクジラ、そして東日本大震災からの復興の歩みを身近に感じることができた牡鹿半島一周サイクリングだった。
牡鹿半島一周サイクリングを走り終えたので、ようやく神奈川への帰路につこうかと思ったが、まだ午前中。午後の時間がもったいないではないか?
というわけで、午後は昨日の松島サイクリングで気になっていた、奥松島の宮戸島一周サイクリングへ。灼熱サイクリングはまだまだ続く。