南アルプス

〔100名山〕赤石岳_冬 ~山中ギックリで敗退...いろいろキャパオーバーで手強すぎる山だった~

年末に2週連続で上河内岳→聖岳と登り、念願の聖岳東尾根を意外とあっさり登れてしまって思ったことが1つ。東尾根からずっと見えていた赤石岳ってカッコイイな!そしてもしかしたら、自分でも行けちゃうんじゃない?赤石岳。
こうなると聖岳よりもう一つ奥にある、巨大な山塊赤石岳が気になって仕方がない。そして小赤石岳山頂から見た赤石岳の朝焼けは、きっと素晴らしいだろう。

■ ルート選択
冬季の赤石岳の記録を調べると、驚くほど記録がない。そしてほとんどは年末年始に集中しており、それだけ難しいということが分かる。
ルートを調べると、沼平から入った場合の一番のネックは、「ラクダの背」と呼ばれる東尾根の険しい雪稜と雪壁。”これぞ冬山”と思わせるような痩せた雪稜を、自分でトレースを刻みながら歩くイメージはない。ここを自分は超えられるか?写真を見てイメージしてみるが、なんとかロープなしで登れそうな気がするが、行ってみないと実際のところは分からない。
一方、反対側の小渋川ルートも調べてみると、痩せた雪稜はないようだが、渡渉の連続と反対側まで回り込むのが面倒。そして何より富士見平から等、東側から見た赤石岳の方が写真的に良い。
という思考回路で、東尾根から行くことに決定。聖岳登山口よりさらに3km奥に延びる片道17kmの東俣林道は、いつものようにMTBで短縮させよう。

赤石岳登頂のチャンスは、人が入る年末年始~成人の日までと考えていた。この期間を外せば、トレースも期待できずフルラッセルとなり、ソロだと厳しく敗退濃厚と容易に想像がつく。
しかし今年になって、昨年のクリスマスのドカ雪以降、まとまった降雪はない。最後のチャンスと思っていた成人の日の3連休には、見事に雪が解け、ライブカメラで見ると地肌が剝き出て黒々している。これはないな...。
翌週に3週間ぶりくらいとなる纏まった降雪があり、白い峰々が復活する。大雪でもなく少な過ぎでもなく、写真映えと登頂の可能性を考えると、ベストな積雪量と思えてきた。いったん赤石岳チャレンジは来年以降に持ち越しと考えていたが、雪の状況と天気と仕事の関係から、急遽チャレンジすることとした。

ルート/shibawannkoのワンポイントアドバイス

〔1日目_山行〕8時間30分/〔休憩〕1時間/〔合計〕9時間30分
畑薙ダムゲート前 06:10 ⇒ 08:10 赤石岳東尾根コース登山口 09:00 ⇒ 11:20カンバ段 11:30 ⇒ 15:40 赤石小屋

〔2日目_山行〕16時間20分/〔休憩〕6時間/〔合計〕22時間20分
赤石小屋 01:30 ⇒ 02:30 富士見平 02:40 ⇒ 05:40 ラクダの背(核心)07:30 ⇒ 08:10 小赤石岳手前の引き返し3,000m地点 08:20 ⇒ 12:40 富士見平 13:00 ⇒ 14:10 ⇒ 赤石小屋 16:40 ⇒ 19:20 カンバ段 19:30 ⇒ 21:20 赤石岳東尾根コース登山口 22:10 ⇒ 23:50畑薙ダムゲート前

ポイント

≪使用武器≫
◗ 12本爪アイゼン/ウィペット×2/ピッケル/スノーシュー
⇒ すべて使用。
⇒ ストック代わりにウィペットを持っておくと、核心の雪壁でピックを2つ使える。

≪危険個所≫
◗ ラクダの背の雪壁~小赤石岳
⇒ 技術と雪によるが、ロープなしでギリギリの感じがする。
◗ ラクダの背手前の樹林2つのこぶの夏道トラバースルート
⇒ 1つ目のこぶはなんとか巻けても、2つ目のこぶは笑える斜度。
◗ 登山口~赤石小屋~富士見平
⇒ 危険個所は特になし。ルートは明瞭。

≪東俣林道へのMTB投入≫
◗ MTBはかなり有効。往路で2時間/復路で1時間40分。落石注意。
⇒ 全般的に勾配は少なく、緩い登りと下りを繰り返すため、上りで押し歩いても、その次の下りでMTBに乗って下りれるという繰り返し。
⇒ 往路復路ともに半分くらいはMTBに乗っていられる感じ。往路より復路の方が下り区間が長いため、移動時間は少ない。
⇒ ヘッドライトの電源を温存するため、MTBに高輝度の照明をつけておくと便利

 

山行記録 2023年1月20日~21日

(1日目)畑薙ダムゲート前 06:10 ~ 08:10 東尾根コース登山口

沼平ゲートの駐車台数は、平日ともあってゼロ。こんな奥まった山域に自分一人しかないないことが確定。何かあったら...、とか思うとただただ恐怖でしかない。来た山間違っちゃったのかな...、とか思う。

06:10 沼平ゲート出発。午後の天気は悪いので、富士見平からの夕景撮影は狙わないことにした。珍しく明るくなってからの”普通”の登山開始。
畑薙ダムまでアクセスするだけでも、インターから70kmの山道運転で大変。少しでも早出しようとすると睡眠時間がなくなり、いつもの徹夜登山になってしまう。今回の赤石岳は、今まで自分がやってきた冬山登山の中で最も危険な冬山だ。少しでも万全な状態で臨みたい。出発時間を遅らすことによって、1時間半ほど仮眠することができた。
それにしても僅か1ヶ月の間で、3回沼平ゲートに立つ人っているのかな?もう通勤みたいに思えてきたぞ(笑)。

短期間で何度も足を踏み入れているものだから、東俣林道のコースが頭に入ってきた。往路復路ともに自転車押し歩きのポイントと乗って行けるポイントを覚えて、無駄に体力を消耗することがない。
工夫も生まれ、スノーシューやアイゼン等の重い荷物は背負わず、手提げ袋に入れて自転車を台車代わりにして運ぶことで省力化を図る。
また、赤石岳登山の前に極力体力を消耗させないために、本気で電動アシストMTBの導入を考え検討していたが、結局価格面から意思決定できなかった。なんで自転車でこんなに高いんだろう?250ccのオフロードバイクが買えてしまうではないか。がしかし欲しい...。今までの山行から電動MTBが有効に機能する山を数えてみると、ここ東俣林道だけでなく、結構な数の山が上がった。とりあえず電動MTBの件は、無事赤石岳から降りてから続きを考えることにしよう。

そんなこんなで「電動MTBだったら」とか思いながら自転車をこいでゆくと、自転車に乗った登山者1名に抜かれる。聞くと聖岳に行くという。やっぱり赤石岳ではないのね。
沼平ゲートから冬期に入る人の割合って、手前から上河内岳>聖岳>悪沢岳≒赤石岳の順かな、とか勝手に想像する。

前回は聖沢登山口までだったので、聖沢登山口~赤石岳東尾根コース登山口の3kmの区間は初めて(東海フォレストのバス乗車を除く)。さらに奥地に入り込むので、上り坂で自転車にほぼ乗れないのかと思っていたが、意外と乗れた。
今回は林道上に雪や凍結がないこともあって、沼平ゲートから2時間ちょうどで、赤石岳東尾根コース登山口に辿り着くことができた。

(1日目)赤石岳東尾根コース登山口 09:00 ~ 11:20カンバ段 11:30 ~ 15:40 赤石小屋

EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 28mm f8 1/15sec ISO100 PLフィルター

09:00 準備を整えて、東尾根コース登山口より登山開始。
東俣林道から山々を見て、積雪状況はなんとなく分かる。上部はしっかり雪があるが、上部より下は全く雪は見えない。おそらく前回の暖かい雨のせいで、上部だけ雪が積もったものと想像できる。はたして重たいスノーシューを持っていくべきか?
トレースなんてまったく期待できない。僅かな区間だろうと「トレースがない場合はスノーシュー必要」との判断で、迷ったあげくスノーシューを担ぎ上げることにした。

下から見た通り、雪はしばらくまったく現れない。大量の落ち葉が登山道を多い、まったく冬山らしくない。秋山か?
1,900mあたりから雪道っぽくなるが、長い間新雪の補充がなかったこともあってか、雪質はザラメ。沈み込まない一方で凍結はなく表面のザラメがよくグリップする。
そろそろ着いて欲しいという終盤に、「歩荷返し」の急登区間が現る。歩きやすい雪質だったので、標高2,300m付近までアプローチシューズで快適に登れてしまった。傾斜が急になってそろそろ危なくなってきたので、スノーシューに切り替える。今日の沈み込まない雪質だとチェーンアイゼンでもよいくらいだったが、斜度をヒールリフターが相殺してくれて歩きやすい。
疲れてきた頃に現れる急登は辛い。明日がアタック日で本番。明日に向けて極力体力を温存するため、疲れる前にこまめに休憩を取り、カメのようなペースでゆっくり登る。
歩荷返し終了地点から赤石小屋までは傾斜は緩くなるが、斜面のトラバースが続く。案の定トレースはなく、ここからいよいよラッセルスタート。積雪量が少なく大したラッセルではないが、トラバースが延々続き、終盤に来て体力が持っていかれる。
トレースはないが、心強いのがウサギトレース。ほぼほぼ正確に登山道上にウサギトレースが続き、3匹分くらい纏まってくれると心強さも感じる。w
雪が少なく、よっぽど途中でスノーシューをデポしようと何度も思ったが、やっぱり持ってきて正解だった!とムダに担ぎ上げた感から解放されて、少し元気が出た。

15:40 登山口から6時間強かけて、今日の宿泊地である赤石小屋に到着。17kmの林道区間は、MTB投入により時間と体力の消耗を押さえることができた。しかしそこからの冬山テント泊のフルセットを持っての、標高差1,400mの上りはさすがに堪えた。2日目に赤石岳にアタックするのであれば、前日には最低限赤石小屋まで登っておくことは必須だと思う。
まだ日没までに時間もあるので、状況によっては1時間ほど先にある富士見平まで行こうと思っていたが、赤石小屋までとした。今晩は荒れ模様の予報が出ていて既に強風が吹き荒れ始めているのと、前回聖岳に登ったときに、標高2,630mの白蓬ノ頭でテント泊したときには、テント内でも氷点下15度まで下がり、手足が相当寒い思いをしたからだ。
小屋泊りはありがたい。夜は天気予報通りに嵐が吹き荒れ雪が舞っていたが、テント内は氷点下5度くらいに抑えられポカポカに暖かかった。富士見平まで上げずに小屋泊りとしておいてよかった。
宿泊者は自分一人だけの貸し切り。明日のアタック本番に備えて19時就寝。

(2日目)赤石小屋 01:30 ~ 05:40 2,940mラクダの背_核心手前のコル

EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 24mm f8 3.2sec ISO100 PLフィルター

23時起床。0時に目覚ましをかけていたが、不安がいっぱいだったのか、4時間弱で起きてしまい、もう寝れなくなってしまった。
目的は小赤石岳山頂からの赤石岳の朝焼け撮影。初めてのルートでルート不明、ナイトハイクによる道迷い、核心部の積雪状況不明、加えてラッセル確実とあれば、安全を確保するためには慎重にゆっくり行動できるだけの時間が必要だ。

01:30 最大の懸念であった天候も回復し、星空が現れていた。核心を闇夜に通過できるものなのか?と不安材料は山ほどあるが、もうこれは行くしかない。何が起きても時間に急かされることがないよう、早めに出発することにする。朝焼け撮影がメインの自分の山行スタイルだと、夜明け時刻が純然たるリミットなのだ。お天道様は待ってはくれない。
赤石小屋から先も、正月に一度はついたであろうトレースは完全に消えているため、スノーシューでの軽いラッセルスタート。

02:30 密林のような樹林帯の中、斜面をトラバースしながら高度をゆるゆる上げていくと、1時間ほどで富士見平に到着する。闇夜の新月なので地形がよく分からず。平坦な地形で方向を見失いながらも、GPSを確認しながらラクダの背へ進む。

核心とされるラクダの背の雪壁がルート上最大の懸念だが、核心に至る前の樹林の2つのこぶを超えるのも懸念の1つだ。
案の定、その懸念はMaxにヒットした。少ない記録を参考にさせてもらうと、1つ目のこぶは夏道のトラバースルートで巻き、2つ目のこぶ(2,769mピーク)へは夏道のトラバースルートではなく尾根を越えていくらしい。
1つ目のこぶは、赤石岳に正対して、こぶの左斜面をトラバースして巻く。この1つ目のこぶのトラバースに入って早々、斜度が急すぎて、スノーシューではお手上げ状態。トラバースも得意とするライトニングアッセントでも、まったく歯が立たない。冬のトラバースルートは、雪が積もるとこれほどまでに急な滑り台になるね...。
ここでスノーシューをデポして12本爪のアイゼンに換え、ウィペット×2本のうち1本をピッケルに換えて、アイゼン+ウィペット+ピッケルという態勢に整える。
強烈な斜度のトラバースも、山側にピッケル、谷側にウィペットと2本で支えるといい感じで、足元の雪もよく締まっており、ゆっくりながらではあるが確実に進むことができた。

問題は2つ目のこぶ超え。2つ目のこぶのトラバースルートに入ると、さらに斜度が急になり、とてもではないがルートとは思えない危険な斜度になる。たまらず尾根を目指すが、密林に阻まれて尾根に出ることすらできない。仕方ないので、再度トラバースルートに戻ることを試みるが、暗闇でルートが分からずまた密林に刺さって先に進めなくなる。もう発狂しそう。
ナイトハイクで恐ろしいのは、一番は道迷いだ。いくらこまめにGPSで確認しようとも高照度のヘッドライトで照らしても、暗闇でルートを判別するには限界はある。
今回は、2つ目のこぶを尾根に入る冬道入口を見つけられなかったことと、2つ目のこぶのトラバースルートをも見失った。冬道入口は最後まで分からなかったが、トラバースルートは急すぎて、最初ルートと思わなかったことで迷走した。
最終的には超急斜面となったトラバースルートを探し当てて辿ってゆくことになったが、この手前の樹林の2つのこぶ通過に、相当の時間と体力と水分を消耗する羽目になった。

2つの樹林のこぶを巻いて尾根筋のコルに到達すると、ここからようやく雪稜歩きとなる。北側は切れ落ち、なかなかの雪稜だが、まだまだ恐怖を感じるほどではない。傾斜はそこそこ急で、ラッセルしながら登っていくのは大変だが、先ほどの密林地獄に比べればよっぽどましだった。ルートは明瞭で、木々で行く手を阻まれることはなく、ようやく普通のペースに戻る。

2つのこぶの通過と道迷いで、無理やり詰め込んだ朝食?のエネルギーをほぼほぼ使い切ってしまったらしい。これから続く核心の登りに備えるために行動食を摂ろうとすると、衝撃の光景を目にする。
背中に括り付けていたウィペット1本のジョイントから下の下部シャフトがないよ!先のこぶ超えで樹林を掻き分けていたときに何度も引っかかって強引に進んでいたときに外れたのだろう。ある時点から背中が妙に引っかからなくなったと思ったらこういうことだったのか。
ウィペット自体もそんな安いものでもないし、今日下山するときにストック1本で下山することを思うと、テンションだだ下がりだ。抜け落ちた下部シャフトは、急斜面を滑っていって見つけられないだろうと思った。しかし僅かな望みをかけて、帰りに探しながら帰るしかない。今日はまだ目的を何1つとして達成していない。先に進むしかない。

次なる懸念は核心の雪壁。早くそこまで辿り着きたいが、闇の中から現れる偽ピークに騙され続ける。進むにつれて雪稜はさらに細まり、なかなかいい感じのリッジになってくる。トレースは当然ないので、自分で確実にナイフリッジの雪稜にトレースを刻んでいく。ナイフリッジとなった雪稜歩きは今まで何度かあるが、トレースを付ける側となるのは実は今回が初めて。闇夜の中切り立つリッジは恐ろしくはあるが、雪質はザラメ~パウダーで、簡単に頭を潰せたりするので、それほど難しいものではなかった。

05:40 次々と細いナイフリッジが現れるたびに「核心か!?」と思いながら進んでゆくと、闇夜の中、ようやく本当の核心が目の前に現れた。
見るからにそれとわかる反り立ち様で、ひしひしとヤバイ圧迫感が伝わってくる。写真で見るのといざ実物を前にするのとは、やはり違うものだ。
ヘッドライトで照らすものの、暗い中だと登れる気がしない。時間も微妙。たとえ取り付いて登ったとしても、小赤石岳山頂に夜明け前までに着くことは出来なさそうだ。
明るくなってきた周囲を見渡すと、想像以上のスケールで赤石岳が迫る。尾根を挟んだ悪沢岳方面の山々の繋がりも素晴らしい。朝焼け撮影ポイントは、この核心部手前のコル(2,940m)で十分良さそうだ。時間に急かされながら核心に取り付いても、焦って良からぬことが起こりそうなので、夜明けまで1時間くらい待って、核心部手前のコルから朝焼け撮影を行うことにした。

(2日目)2,940mラクダの背_核心手前のコル 07:30 ~3,000m地点まで往復

EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 45mm f8 2.5sec ISO100 PLフィルター

そうと決めれば、腹ごしらえと防寒装備をまずは整える。核心手前のコルまで下り、リュックを雪面に下ろそうとした瞬間に「グキっ!」という感触とともに腰に激痛を感じる。今までに何度もやって思えがある鋭く強烈な痛みだ。やっちまった!ギックリしたーっ!! こんなとこでーーっ!!!
一度ギックリしたら後は痛むのみ。もうもとには戻らない。2週間前に湯ノ丸スキーで腰に違和感を感じたままになっていたところが、山中でギックリ腰に発展した。しかもよりによって、こんな一番厳しい山行の一番最奥でやらかすなんて...。
今までで一番ひどかったギックリ腰は、バキッと音がして立ち上がることすらできないものだったが、そこまで重度ではないにせよ、今はアドレナリンが出まくっていてこれだけ痛むとは、決して軽度ではない。上半身の傾きを変えるだけで激痛が走る。
核心も超えておらず赤石岳にもまだまだ届かず、帰るにしてもその距離と荷物の重さを考えると、その大変さに気が遠くなる。これって”遭難”っていうのかな?

とりあえず目的の朝焼けを撮影しよう。夜明けまで1時間あるので、ハードシェルを着込んで最大防寒にし、小屋まで戻れるだけの食料を胃に詰め込む。風はなくあまり寒さはあまり感じなかったが、温度計を見ると氷点下20度だった。今までで強烈に寒い瞬間はあったが、温度計で目撃した気温としては最低記録だ。こんな極寒の中、重たいリュックを上げ下げしてたら、ギックリ腰くらいなるよね、とか普通に思えてきた。w だいたい今までギックリ腰をやったのも冬のスキーだったり、冬のゴルフ練習だったり、冬のタイヤ交換だったり、思い返せば全部冬だった。

06:50 腰の激痛で痛いのか寒いのかなんだかよく分からない中、ようやく太陽が昇ってくる。雪を纏って朝日に染まる赤石岳が美しすぎる。このスケール感はなかなか筆舌しがたい。聖岳もデカいと思うが、こうして見ると赤石岳の方がデカくないだろうか?
赤石岳の朝焼けの写真を紙面等で見た記憶があまりないが、赤石岳がこんな素晴らしい絶景の山だったなんて。もっと槍ヶ岳や穂高連峰みたいに盛大に取り上げられてもよいのではないかと思ってしまう。それほど冬に来にくい山ということなのだろうか。
聖岳は、残念ながら赤石岳に隠れて見えず。赤石岳の長大な稜線の隅に、ちょこっと上河内岳がピークをのぞかせる。あの上河内岳がこんなに低く見えるなんて。すっげーな、赤石岳!
反対側を見やれば、荒川中岳~悪沢岳の繋がりが凄い。3,000mの稜線に圧倒される。次は悪沢岳からの赤石岳の朝焼けも狙ってみたいな、とかとか。目の前で展開する光景が素晴らしすぎて、腰は痛いがそれどころではない。

朝焼け写真を一通り撮り終わると、現実が目の前に聳え立っている。で、これ(核心の雪壁)、どうするよ?
闇夜に見たときは、登れる気がしなかったが、明るくなってから見ると登れるような気がする。天気は予報通りの快晴。昨晩のプチ嵐でうっすらと新雪が被って綺麗に雪化粧され、撮影と登頂を果たすには千載一遇、絶好のチャンスだ。しかし腰はギックリ激痛。どうしよう?

EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 24mm f11 1/250sec ISO100 PLフィルター

ここまで来て引き返すのはもったいなさすぎる。腰は痛いがアドレナリン出まくっているから、なんとかなるだろう?と様子見で核心の雪壁に取り付くことにした。
しかし出だしが厳しく、なかなか先に進めない。雪質はザラメっぽく締りはない。雪付きも中途半端で、あんまりよい状態ではないように思えた。ピッケルのシャフトを根元まで刺せれば確実だが、雪が付きが少なく、ピッケルのシャフトを刺せない箇所が多い。
取り付いてみて思った。「これ俺登ったらダメなんじゃない?」と直感が言っている。登れるかもしれないが、下りれないんじゃないかと。

クライミングはハッキリ言って好きではない。しかし超えた先のものを見たければ超えるしかない。上りながらいろいろ考えてみる。次の安定したステップを確保するために、まず岩の上の雪を削り払えばよいのか、とかとか。やりながらだんだん何かを掴んでいっている気がするが、本番でやることではない。
武器はピッケル+ウィペットのため、シャフトを刺すのはピッケルでしかさせないが、ピック部分であればウィペットのものも使えて、1.5ピッケルみたいな攻撃力。こんなところまで持ち上げるかどうかは別として、こういった雪壁の登攀は、ピッケルが2本あった方が絶大に安定すると思う。

EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 24mm f11 1/160sec ISO100 PLフィルター

ピッケル+ウィペットの力を借りて、核心の一番急な部分を何とか登ってしまった。その先も気の抜けない緊張する斜度が続くが、そこもこなして、ようやく2本の足だけで立てる場所まで出る。その先に見た光景は、小赤石岳までまだまだ続く痩せた雪稜。マジかよ...、どうする?行くのかあれ?
自分の中では、核心の下りが心配で仕方がない。下りれるのか、あれを?この先続く雪稜も、場所によってはクライムダウンが必要な斜面ばかりに見える。この稜線を進めば進むほど、帰りのクライムダウンが増え、リスクは増大していくことになる。もう引き返すべきという直感アラームが鳴り続けるが、天気は最高。こんな所こんな条件で二度と来れるか。
直感アラームに逆らって、さらに次のピークまで登ってみるが、そのピークの先に見えたのは、小赤石岳直下の雪と岩の崖のような斜面。その光景を見たときに自分の中で何かがいっぱいになった。足を踏み出してみるが、腰の激痛でもう足の踏ん張りがきかなくなっていた。ここまでだ!

① 核心に至る前の樹林の2つのこぶ通過で道迷いし、既に相当の体力を消耗し、
② 核心手前のコルで激しくギックリ腰を起こし、
➂ 慣れない核心雪壁の上りと下りのクライムダウンの心労で心はいっぱい。

08:20 これ以上進んだら、集中力を切らさず無事下りてこれる自信がない。3,000mを少し超えた地点で敗退決定。小赤石岳まで直線距離で150mほど、標高差で80mほどだが、いろんな面でキャパオーバーしているこの状況では、赤石岳山頂は果てしなく遠く感じられた。
仮に②ギックリ腰を起こしていなかったとしても、①体力と➂雪稜技術が足りていなかったため、今の自分では登頂は難しかったとも思える。さらにこの時点で既に水分の大半を使い切ってしまっていた。
この最高の条件の中で敗退するなんて。悔しいけれど仕方がない。撤退地点で写真を撮って下山する。気が動転していたのか、登攀時にレンズに着いた雪に気付かないという大失態ぶり。

核心の下りは、当然ながら上りよりも難易度は増す。1つ1つの足場を確実に、相当上の部分から、クライムダウンで下り切った。ひとまずの生還を確信した。

(2日目)2,940mラクダの背_核心手前のコル 09:20 ~ 23:50 沼平ゲート

EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 24mm f11 1/320sec ISO100 PLフィルター

最高の景色の中、下山する。こんな素晴らしい景色の中に、自分一人しかいないなんて。南アルプス、どのエリアよりも本当に1人率が高い(笑)。
来た道を帰るだけだが、懸念事項はまだまだ残っている。樹林の2つのこぶの通過とウィペットの下部シャフトの回収と、今日中の下山だ。

核心より下の雪稜は幅が広いため、特に難しいところはない。ザクザク下りていきコルに出ると、2つ目のこぶ(2,769mピーク)に突き当たる。冬道は尾根を直登するようだが、往路で巻いた際にウィペットの下部シャフトを落としてしまったので、その回収のために再度急峻なトラバースルートを進まざるをえない。

自分の足跡を辿っていくが、気温上昇で雪が緩み、トラバースルートは更なるデンジャラスゾーンに進化していた。往路は夜間で雪が締まっていたため、ピッケルとウィペットの2点支持だけでなんとか歩けたが、復路は雪が緩んで、2点で支持しても足もとから滑りまくりで滑落必至。慎重に歩いても3回ほど足場ごと持っていかれた。この雪質と急斜面ではいかんともしがたい。そのため、一歩一歩、山側のピッケルを根元まで差しながら進む必要があった。ピッケルを根元まで刺し込んでおけば、足が滑っても滑落は止められた。万が一止められなくても、木がたくさんあるのでどっかには引っかかる。w
行きよりも緩んだ雪に苦戦しながら進んでゆくと、あったよ!ウィペットの下部シャフトが。なんと、急斜面を滑ってなくなっているものと期待していなかったのだが、一番手前の木の根元で止まっていてくれた。今日は登頂出来なかったけれど、目的の朝焼けも撮影できたし、紛失したウィペットの下部シャフトも回収できたし、上出来の山行としよう。

気分は一気に回復したが、ギックリした腰は歩くたびに上半身と下半身がちぎれそうな激痛が走るのに加え、トラバースルートの斜度は、笑ってしまうほどの急斜面と化し、状況はより悪化している。このトラバースルートは、”滑り台”または”発射台”としか表現しようがない(笑)。冬のトラバースルートって、こんなになるのね。恐ろしい...。
もはや普通の歩き方での通過はできないので、両手のピック2つと両足のアイゼン前爪の計4つを雪面に刺しながらカニのヨコバイで進む方法に辿り着く。この方法だと、時間はかかるが滑落せずに移動することができた。

EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 24mm f11 1/160sec ISO100 PLフィルター

12:40 復路も相当の時間と体力を消耗して、樹林の2つのこぶをなんとか通過し、富士見平へ辿り着く。ラクダの背の核心の雪壁ばかりに気を取られがちだが、その前の樹林の2つのこぶ通過も隠れた核心なのではないかと思う。トレースがなければなおさらで、この区間をどれだけ消耗せずに通過できるかが肝要だと思った。
結局正しいルートは分からなかったが、尾根通しに行ったとしても、それなりの体力と時間は消耗するように思えた。

富士見平から、最後に赤石岳と悪沢岳の雄姿を写真に収める。望遠でアップすると、自分のトレースが見える。核心を超えているのに。なんだか悔しい。
このルートをピストンするのは大変だと思った。天気、体力、技術、気力のどれが欠けても届かない気がする。今回自分に足りなかったのは、体力と技術(とあわよくばトレースw)。せめて道迷いせずトレースがあったならば...、と思ってしまうところもあるが、なにかをさらに高めないと、冬季の赤石岳は今の自分では届かない山だと思った。

14:10 2つ目のこぶを巻くあたりから完全に水切れ。からがらBCの赤石小屋に辿り着く。富士見平~赤石小屋の区間も長いトラバース区間あり。今日の午後の雪質は最低だった。基本ザラメの雪質で表面が固まったモナカになっており、気温上昇により、置いた足場が割れて周囲全体が流されるという感じ。ライトニングアッセントも、今日のこの雪質+トラバースルートでは、置いた足場ごと流されまともに歩けず危険極まりない。雪山ではアイゼンよりもライトニングアッセントを多用してきたが、ここまでまったく役に立たなかったのは今回が初めて。雪質によっては、ライトニングアッセントもなんの役に立たなくなることを知った。

EOS R5+RF24-70mmF2.8L IS USM 24mm f11 1/160sec ISO100 PLフィルター

16:40 下山分の水分と食料を補充し、準備を整え下山開始。ギックリした腰はちぎれそうに痛いが、短期的に休んで直るものではない。山で3日は使えない。さっさと今日中に下山して療養にあてた方がよい。心配をかけているので早く帰りたい。
それにしてもギックリ腰でこのテント泊フル装備の荷物の背負うのは拷問だ。本当にこれ背負って帰るんですかい?帰れるんですかい?自分自身に遭難認定したい気分になってきた。

赤石小屋~歩荷返し終了地点までも、これまた斜面のトラバースルート。赤石岳の東尾根のルートは、トラバースルートが多く、雪質によってはスノーシューとか全く役に立たなくなることを考慮に入れておいた方がよいかもしれない。
行きでスノーシューでつけた自分のトレースを、復路でアイゼンで歩くものだから、もうズボりまくり。トレースの意味がないくらいにズボりまくる。下りは体幹を保ちやすいのか、上りよりかは腰の負担が少なく感じたが、ズボるごとに腰に激痛が走る。いい加減凹まない道を歩きたい(涙)。

21:20 腰をかばいながらゆっくり、何度も休憩をはさみながら、ようやく登山口まで下山。雪がない区間が長く、拷問のような下山だった。30分で自転車走行のパッキングを整え、ナイトサイクリング開始。

23:50 17kmの林道区間は、MTBで1時間40分で到着。コースの要領は得ているので、7-8割は自転車に乗っていられたが、それでも1時間40分はかかった。MTB走行は楽しいが、夜間で景色が見れないのと、疲れ切っていたので、さすがに今回は楽しむというより辛かった。

自分なりに万全に準備を整えて挑んだけれど、届かなかった冬期の赤石岳。正直今の自分には手強すぎる山だった。レベル感でいえば、冬季の聖岳の東尾根より、体力的にも技術的にもはるかに難しい。聖岳東尾根が登れる=赤石岳東尾根も登れるとはならない。
今まで登った冬期南アルプスの難易度は、ざっくりこんな感じに思える。
赤石岳_東尾根>白峰三山縦走>聖岳_東尾根≒塩見岳>上河内岳

何年にもわたって挑んできた冬期の南アルプス。自分の南アルプスの冬の冒険も、ここが最終地点なのだろうか。それにしても、何とも言えぬほど痺れさせてくれる素晴らしい山域だと思う。

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